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私は右隣りに座る坂口が酔いと室内の熱気に当てられ、それまで下ろしていた黒髪を後ろで結い上げた瞬間。
耳の後ろ、普段は髪で隠れているうなじの、見えそうで見えない絶妙な位置に、キスマークがあるのに気づいた。
その位置のキスマーク…
突然胸騒ぎが襲う。
少し前まで、私もその位置にキスマークがあった。
そのキスマークを付けたオトコは、支配欲からか、彼自身にしか分からない痕跡を私に残したがるクセがあった。
それも、服を着たら見えなくなる場所では満足せず、服では隠せない、それでいて髪に隠れて、第三者には中々見つかりにくいけど、見ようと思えば見えるうなじへのキス…。
なぜ坂口にも、そこにキスマークがあるのだろう…?
思い当たったその事実に、私は強烈な嫌悪感を感じた。
黒髪に戻したのも、髪型を私と同じにしたのも、服装を真似てるのも、全部そのため?
だけどそれは、坂口に確認することはためらわれた。
仮に、もしそれが本当に“彼”がつけたものなのなら。
坂口は全て知っているのか。
それとも全く知らないのか。
もしかしたら全てを知ったうえで、他人に聞くよう仕向けられたフリをして、ワザとあんな質問をしてきたのか。
もしかしたら、『バカなオバさん』などと言いながら二人で私のことを笑っていたのか。
逆に。
もしかしたら坂口は本当に何も知らなくて、ただ単に彼と付き合っているだけなのか。
というか、田原くん、なんでよりによって坂口なの?
まさかだけど私への当てつけで、あえて私の部下の坂口と付き合ってるの?
だとしたらなんのために?
そんなことを考えているだけで、精神的におかしくなりそうだ。
先ほどまでの楽しかった気分が、全て何処かに行ってしまった。
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