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私が木々が見渡せる席にこだわったのは、会社の人間関係や仕事に疲れて、季節の移ろいを気にすることすら無くなっていた自分に気づいたからだった。
でも今は一つの成功体験から、周りにに対して肩の力も抜け、心にゆとりもでき、受け流す術も身につけた。
因みに仕事の方も、アルプス興産の後も他社から大型受注を獲得するなど、とりあえず順調だ。
そろそろ、私も違う席に行ってもいい頃かな。
私は、公園の見える窓際の席の反対側。住宅街や商業ビルが見えるだけの窓際の席に、一つ空席を見つけた。
昔なら、他人があくせく働いている様子を否が応でも見せつけられるこの席を敬遠して、選択肢にすらならなかったかもしれない。
でも、自分以外の他人の“人生”を感じ、思いを馳せることも、案外悪くないかもしれない。
自分の意識を変えるだけで、視野が広がる…。
また一つ、妹に教えられた気がした。
席に座ると、ちょうどマスターが灰皿を持たずに階段を上がって来るのが見えた。
こちらが何も言わなくてもマスターは
「“いつもの”ね?」
と聞いてくれるだろうけど、今日は思い切って違うものを頼んでみよう。
私は、変わったんだ。
いつものコーヒーじゃなくて、思い切って今日は紅茶でも頼んでみようかな。
全く知識がないので、茶葉の種類とかメニュー見てもわかんないけどさ。
ダージリンやジャワとかなら聞いたことあるけど、無難にそれにしとこうかな。
いや、思い切ってこの初見のヌワラエリアってのを頼んでみるかな。
そんなことを考えながら、私はメニュー表を広げ、妄想する。
違う席、違うメニュー、そして変わろうとする自分に少しだけワクワクしながら。
完
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