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迎えの車にすぐに乗って走ること20分ほど。病院に着いたみたいだ。朔夜は風邪と言っていたけど…心底心配だった。朔夜は下で待つと言ってくれ、疑心暗鬼で告げられた病室に辿り着くと胸のところまで上布団を被って寝ている蒼の姿がみえ、すぐに駆け寄る。蒼は病室の大きいベッドに寝かせられていて、蒼がいつもより小さく見えた。
スヤスヤと安眠している蒼にホッとして少しため息をつく。
「青木蒼さんのご家族の方ですか?点滴をして眠ったばかりです。しばらくは起きないと思います。熱が高いですがご心配なく。」
「はい、ありがとうございます」
「でも病院に来られて良かったですよ。放っておいたら肺炎になることもありますから…。」
「あの…病院費を支払いに来ました。」
「505室の青木蒼さんのご家族ですよね?」
「はい」
「少々お待ちください…。すでにお支払いいただいてますよ」
「えっ?あっ…」
もしかして関川朔夜が?そう思って病院を出て駐車場に向かうと、自前の高級車に体重を預けてタバコを吸っているアイツがみえた。もう秋だから、長い黒ズボンに長袖のシャツ、その上に上着を着ている。服なんて対して気にしたこともなかったが、意外にもこだわるタイプなのだろうか。
「病院の前でタバコ吸うな」
「あの泣き虫大丈夫だって言われただろ?」
どうやって病院費のことを切り出すか迷った。やっぱり、率直に言うしか…。コイツはヤクザだけど今までかなり助かってきたし…。
「……病院費…」
「お前の頭はどうだって?」
朝の客に殴られたおでこの傷を、髪をかきあげてさすったそいつの音色と顔はいつにもなく優しくて身構えた。普通の人間から見れば、ヤクザが上から見下ろして真顔でおでこに触ってきたなんて、怖い要素しかないのにいつものコイツの頭のイカれ度を知っていた俺からしたら少し柔らかく見えたのだ。
「クソッ痕が残ったらどうすんだよ…」
「異常ないって」
そう言って頭を撫でる手を振り払ったが逆効果のようだ。またいつものピエロみたいなヘラヘラ笑いを顔面に貼り付けた。
「CTも撮ったんだよな?記憶喪失にでもなってないか?」
「何言ってんだよ、あっ!」
「俺とセックスするって約束したの忘れたら困るだろ」
いきなりがばりと俺の方に腕を回したコイツ。なかなかに腕は重くて、それなりに重圧感がある。病院の駐車場という公共の場で、俺の頬にちゅーっと唇を押し付けてきたこの変態ヤクザははやく地獄に行ってほしいと思った。
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