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 俺は寝ぼけ眼で布団という暖かい布に包まれる感触を堪能していた。5分前ほどに目が覚めたのだが、寝起きで頭も動かないし動きたくもないしで虚無感に浸っていたのだ。マジで世界がどうでもいいな気がして、全部放棄したくなった。このままぼーっとしてても許される世界線に行きたい。昨日病院で蒼が風邪に苦しまされていた時、俺は体を売ってアイツとセックスしてたんだ。  先程時刻を確認すると、まだ深夜の3時だった。隣にはあのクソヤクザが寝ている。セックスしてた時はリビングのソファだったのに場所が移動していて、起きた時にはお互い全裸で同じ布団に寝ていた。そして体はベチョベチョじゃなかった。どうやらセックス後、コイツが面倒を見てくれたようだ。きっと揶揄われるだろう。またため息をついた。    そろそろ起きないと。今日の食堂の仕事だが、なんと言われるだろうか。俺は客からセクハラされた被害者にあたるが、手を上げたから絶対に俺が悪い。とりあえず謝っておかないと。…つくづく行きたくないな。ただの防衛本能だったのに…。 「まだ早いのにどこ行くんだ?」  起き上がって四つん這いで服を探そうとしたが、足首を掴まれてしまった。反射で後ろを向くと、寝起きとは思えないほど上機嫌なやつが笑っていた。もちろん犯人は後ろのクソヤクザ、朔夜だ。ご機嫌なコイツとは裏腹に、前と同じようにあらぬところが外気に触れヒリヒリと痛んで、顔が歪んだ。 「うはは、早朝からいい景色見れたな」 「…。」  いつのまに目を覚ましたのかはしらないが、そいつは上半身だけ起き上がらせてヒュ〜と口笛を吹いた。足首を揺らして離せと訴えても、力が増すだけだ。 「行かせろってば、っおい!」  掴んでいた足首を体ごと荒々しく引き寄せ、後ろから抱きしめられる形になる。左手は首の方に、左手は腰の方に巻かれる。したばたと抵抗するが、硬い強靭な筋肉の前ではそんな気も失せかけた。大人しくなったと思われるのは嫌なので、とりあえず抵抗しておく。朝から裸で男2人が何をやってるんだろうか。 「叫ぶなよ。今叫べば朝車で病院に送ってやるぜ」 「ああ゛!?」 「バカじゃないの?」  俺を人質にとって俺のことを脅したようだ。首に人差し指を当て、包丁を突き立てるマネをしていた。  「はは、傷だらけだな」    顔を俺の横に持ってきて、後ろからそう呟いた。昨日締められた首の後が残っている。痕は残りはしなさそうだが、今はあざになっていて少し痛々しかった。黙られたままだと気まずい。せめて何か喋ってくれないと、俺から喋りかけたらもっと気まずいだろ。 「自分自身を見ろ、お前はすでに今日の金は稼いだんだよ。体でな」 「稼いでるんじゃなくて借金を返してるんだ俺は!」  そのあとはコイツにされた両手でのヘッドロックを解くために、向き合って腕の中でモゾモゾとあいつの腕を掴んだり、体をぐるぐると回転させたが結局逃げ出すことはできなかった。握力も腕力も馬鹿力で、ガタイも良くてでかい、こんなのもうゴリラじゃないか。 「抵抗できない…」  結局、あいつの胸に抱かれて息を切らしただけということになってしまった。そして、首筋のあざを親指で撫でられる。 「おい、この怪我のことちゃんと上司のおじさんに言ってみろ。あの人マジで口うるさいけどちゃんといい人だから」 「…。」  本当に聞いてくれるだろうか。俺はオメガだ。アルファやベータは俺たちオメガのことを卑しい性処理だと考える人もいる。まぁ、3ヶ月に一回セックスするために発情するなんて、オメガからしても恥ずかしいどころか汚点になるんだ。もちろん人によっては違うかもしれないけど。こんな性のせいで苦しむなんて嫌だが、もう体を売ってしまった以上どうにもできない。  アルファのコイツに理解されようなんて思ってないけど…。そう言えば、蒼が風邪になった時にコイツは何をしに家に来たのだろうか。 「昨日の朝、なんでここに来たんだ?」 「ん?…あぁ、お前の借金が延長したから」 「…は?」  借金が延長した…?どう言う意味だろうか。また青木陵が…?間違いなく悪いことなのだろうが、動悸がして強張ってくる体を抑える。目の前のコイツは、また笑みを深くした。 「お前の家が予想してた額より低い価格で競売されてな。残念だったな、それだけ」  思わず目の前のコイツを凝視し、胸を手で押した。そのまま立って洗面所に向かい鍵をする。1人残された朔夜は先程昊が寝ていた、今はもう冷たい布団を無言で眺めていた。
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