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(残念だ、まだ多額の借金が残っているのに…。たとえ俺が体を売ってもまだ借金はあるんだ)  洗面所の鏡の前でじっと自分を見つめる。あいつは俺に体を売ることを強制したわけじゃない。チャンスをくれたんだ。クビになって風俗かクラブに連れてかれるよりマシなんだ…。これで、よかったはず。そうして自分に言い聞かせるしかなかった。 (少しずつ、時間がかかっても俺は自分で返していく。これしかない)  蛇口を捻り、水を貯める。一通り溜まったところで、そこに勢いよく顔を埋めた。その水は冷たくて、あの海が思い出されてひしひしと罪悪感が込み上げる。…大丈夫かな、蒼。きっと苦しいだろうに。少しずつ体内の酸素が奪われる。 (青木陵はまだ見つからない…。それに前殴ったアイツもどうなっているかわからない。)  俺の口や鼻から空気がプクプクと浮き上がる。水の中は少し霞んでいたが、底のタイルがよく見えていた。息が苦しくなって顔を上げたが、また下を見て両手で顔を洗っていく。 (大丈夫だ。きっと、借金はいつか返せる。青木陵だってすぐ見つかって、俺と蒼は自由に…。はぁ、いや…もっと手間がかかるだろう)  手を止めて横に置いてあるタオルを取り、荒々しく擦り付ける。蒼…。きっと目が覚めたときに1人だと寂しいだろう。病院に行かないと。
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