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『お〜い新人!!』
工場現場だ。まともに学歴もない高卒の俺は、工場の仕事にしかつけない。ひたすら石を動かしたり詰めたり、袋から出したり…色々だ。家出からしばらく立ったのだが、ネカフェやらで蒼と寝泊まりしていた。
『なんですか?』
『所長が呼んでるぞ』
『どうしてですか?』
『知るかよ』
『クソ…ッ』
ほんと、その時は何もかもにイライラしていた。そして、金や弟のことに気を取られすぎていた。
『おい、まだ金は貯まってないのか?』
『まだ1週間しか経ってないですよ』
『ワンルームでも探してみろよ、頼み込めばどうにかなるだろ。あのチビ連れていつまでネカフェとか転々とするつもりだ?』
さっきから俺と会話してるのは新しい仕事の先輩だ。前に一度蒼を連れてきたことがあるから、蒼のことは知っている。
『あーもう、ほっといてくださいよ…。』
『作業着も早く買うんだぞ』
『ちょっと!』
『話が終わったらあそこに来いよ。すぐに昼飯食いに行こう。』
『わかりました』
そうして事務所のドアに手をかけて開けたのだが、中にいたのは所長じゃなくて知らない男性。ダサい髪型に小太りの男だった。スーツを着ているが、胸元を開けて着崩している。ガラが悪そうだった。
『おい青木昊さん』
『…所長に呼ばれてきたんですが。誰で…』
『青木陵の息子だろ?』
俺の言葉に被せて言われた、憎い父親の名前。思わず耳を疑ったのを覚えている。数秒経って、ようやく頭が追いついた。
『…何のようですか』
『それがな…はぁ、青木陵が消えた。まんまと逃げやがったんだ。』
『俺はあなたが探している理由も知らないですしその男がどこにいるかも…』
『俺たちに借金があるんだが』
また、言葉を遮った。あいつ関連なら、必ずろくなことがない。それは今までの経験上わかりきっている。
『ざっと7600万だ。7600。』
『お、俺とは関係ありません』
『関係あるだろ?お前があいつの唯一の財産だぞ。あいつの家はすでに俺たちのモンだし、お前が保証人なんだ』
『なっ…!?保証人になった覚えなんてない!俺は…!』
俺は相手の胸ぐらを掴みかけるがあっけなくその腕をつかまれた。小太りの男は俺の手を強引に掴むと、契約書と思われる紙と俺の指の指紋をちらちら見比べた。
『でも…指紋は同じだな。いや〜青木陵は才能があるぞ。お前に気づかれずに押したようだな。まぁかと言って何も変わらないがな。』
『なんだと!?』
『ま、俺たちは金を返してもらわないといけないからな。何をしても受け取りさえすればそれでいいんだ」
『クソッなんだよそれ…!』
『おい、おい。諦めて従えよ』
『そんなの…』
『お前、オメガなんだって?うーんそうは見えないが…お前みたいなやつも意外と売れるからな』
そうやってそいつは鼻を荒げ俺の右手を握ってきたのだ。そして少しずつ上へ…。ただでさえ胸糞が悪かったと言うのに、またイライラしてどうしようもないほど俺はキレていた。気持ち悪くて、全身の毛穴がぞわぞわと開いたような気がした。
『ここで解決しろ。おじさん愛してる〜って何回はやれば…んっ?』
気色悪い。そう思って、そのコイツの首根っこを掴み、すぐ近くにあった低い机に殴りつけた。そして、あっけなくやつは倒れ———-
そこでそこでハっと目が覚めた。大して寝れていないのに、こんな胸糞悪い夢なんかに睡眠を妨げられるなんて。そういえばあの小太りの男はどうなったのだろうか。確かあの後……。
(そうだ、俺人殴ってたんだ)
あの後、すぐに起き上がった小太りの男と掴み合いやら殴り合いやらしたんだ。結局勝ったのは俺だったけど、相手は机の角に頭を強打したようで血が流れていた。
(あの男、死んでないよな?かなり出血してたけど…)
もし死んでたら、俺はどうなるんだ?あの男と同じヤクザどもに酷い仕打ちを受けるかもしれないし、蒼もどうなってしまうのだろうか。もう、考えたくもない…。
あの時口に出された大金。鳥肌がした。自分で働かないくせにいっぱい金を使って、借金は全部息子の俺に支払えと?それで俺が家出して金を摂取できなくなったら逃げるって?あの青木陵はクズだ。子供を金として扱う精神。あいつの全てが信じられなかった。
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