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二人きりの夜には高いお酒を買って帰ります。
弟達が寝静まった頃、僕と彼女で晩酌をするために。
その日、彼女はなかなかグラスに口をつけませんでした。訝しんでいると、どうやら飴を舐めているようだと分かります。彼女は甘いものが苦手なので、意外に思いました。
それで珍しいねと言うと、彼女はくすくすと声を漏らします。
笑い声と共に甘い香りが漂ってきました。鼻腔に侵入した甘さには馴染みがあります。嗅ぎ慣れたその匂いに、僕はようやっと今日が何の日か思い出しました。
あの飴は父の好物だったものです。
「あの人がいなくなって8年になるのね」
グラスの中で揺蕩うワインを見つめながら懐かしげに溢します。
彼女は優しい人です。
血の繋がらない僕達をずっと育ててくれる程に。
贅沢らしい贅沢もしない彼女に、だから偶には息抜きにとお酒を買って。すると、彼女は喜んでくれて、二人で過ごすその時間は僕にとっても至福のものだったけれど。
彼女は舌の上で飴を転がしています。まるで口付けでもするかのように。
どうやら二人の逢瀬を邪魔したようだと悟りました。
ええ、なんと言いますか、俗に言う失恋というやつです。
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