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市場へ戻り、再びセネル国へ戻る為、夜に出航する船に乗り込んだ二人は、充てがわれた船室へ入る。
そこは二段ベッドと小さなテーブルに二人がけのソファーがあるだけのこじんまりとした個室だったのだが、身体を休めるには十分な空間だった。
「エリス、疲れたろう? 少し休むといい」
口数が少なくなったエリスを心配したギルバートはそう声を掛けるも、彼女は立ち尽くしたまま、何も反応を示さない。
「エリス」
そんな彼女にギルバートが再度声を掛けると、
「ギルバートさん、私、もう少しルビナ国へ残りたいです」
泣きそうな表情を浮かべたエリスがまだルビナ国へ残りたいと訴えかけた。
「何を言うんだ?」
「突拍子も無い事言ってるって分かってます。けど、私、このルビナ国がどうなってしまうのかが心配で!」
恐らく、先程のシューベルトとリリナの話を聞いて不安が募っているのだとギルバートは分かっていた。
しかし、仮にエリスがこの国へ残ったところで、アフロディーテたちと接触出来る訳じゃ無いのだから、国の行く末を知る事など出来るはずが無い。
「お前の気持ちは分からないでも無いが、ここに残ったところでどこで情報を得る? それ以前にお前は捜索されている身なんだ。迂闊に城へ近付ける訳が無いだろう? 一旦落ち着くんだ」
何とか諦めさせようと説得を試みるギルバートだが、それでもエリスは納得がいかないのか、首を縦には振らない。
そんな彼女を前にしたギルバートは溜め息を一つ吐くと、
「お前に、話しておきたい事がある――」
話すべきか否か迷っていた、ある重要な話を、エリスに伝える覚悟を決めてそう切り出した。
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