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聞いてから暫くは怒りでどうにかなりそうだった彼女も、ギルバートに諭され、怒りや憎しみを抱き続けたままでは復讐もままならない事を理解し、怒りを無くす事は無理だとしても、冷静さを失わないくらいに心を落ちつかせる事が出来た。
それでも、やはり一人になると色々考えてしまう。
野菜を切りながらふと考えごとをしてしまったエリスの手元は狂い、
「痛ッ」
不注意から包丁で指を傷付けてしまった。
傷自体そこまで深く無いものの、刃物で肌が傷付いたその瞬間、あの日暗闇で見知らぬ男に襲われた出来事が再びフラッシュバックしてしまう。
「……ッはぁ、……っ、」
その場に蹲ったエリスは過呼吸になり、息苦しさを感じながら必死に息を吸おうとする。
そこへ、
「エリス!?」
ちょうど水汲みを終えて戻って来たギルバートが駆け付け、彼女の背中を擦り始める。
「落ち着け、ゆっくり息を吸って、吐くんだ」
何があったのか状況判断が出来ないものの、何かをきっかけに過呼吸を起こした事だけは分かったギルバートはひとまずエリスの呼吸を整えるのが先だとひたすら彼女の背を優しく擦り続けた。
何度か吸って吐いてを繰り返していくうちに落ち着きを取り戻したエリスを前に安堵するギルバート。
ふと、彼女の左人差し指から血が滲んでいるのを確認する。
「エリス、指切ったのか?」
「……すみません、不注意で、少し刃先が掠ってしまって……」
「すぐに手当しよう」
「はい……」
その状況からギルバートは何故エリスが過呼吸になったのか何となく理解し、それには触れず黙々と傷の手当をした。
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