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エリスの言葉にギルバートは微かに微笑むと、
「ああ、いいぞ」
手招きをして自身の隣に来るよう促した。
「ブランケット、使うか?」
「いえ、大丈夫です。リュダの体温が暖かいですから」
「そうか」
リュダに寄り掛かり並んで座る二人。
ギルバートは持ってきた本を取り出すとそれを開いて読み始める。
一方エリスはというと、座っているすぐ横に生えている草花を眺めたり、空を見上げたりと自然を満喫しているようで笑顔を滲ませている。
それから三十分程過ぎただろうか、自然を堪能したエリスはだんだん眠くなってきたのか、何度か小さな欠伸をするとそれに気付いたギルバートは、
「眠いなら少し寝た方がいい。夜、あまり眠れていないだろう?」
夜中に何度となく目を覚ましている事に気づいていたギルバートはそう声を掛けた。
「……はい、でも……眠ると、怖いんです」
「悪夢を見る事がか?」
「それもありますし、無いって分かってはいるんですけど……また襲われたらと思うと、どうしても怖くなるんです」
トラウマというものは、そう簡単には消えない。
受けた者の心に、深く刻まれてしまうものだから。
そして、それを他人が癒せる事もなかなか出来ない。
「そうだな、身体の傷はいつか癒えるが、心の傷は消えない……そしてそれは受けた者にしか分からない苦しみだな」
「……はい」
「俺にも、お前の心の傷を全て取り除いてやる事は出来ない。それが凄くもどかしいと感じている」
「ギルバートさん……」
「それでも、俺はお前に寄り添いたい……少しでも、お前が安心出来る環境を作ってやりたい。その為にも、もっと、俺を頼ってほしいと思っている」
「私は、今でも十分ギルバートさんを頼りにしていますよ?」
「いや、恐らくお前自身も気付いていないんだろう、お前はまだまだ自分一人で抱えている事が殆どだし、遠慮している事ばかりだ」
「…………」
「誰にも頼らず一人で生きていかなければならない、そういう環境に置かれていたから仕方のない事かもしれない。俺もそうだったから、よく分かる」
「ギルバートさんも?」
「ああ。俺には頼れる人間はほぼいなかったし、自分の力で何とかするしかない状況だったからな。俺が唯一心を許せていたのはリュダだけだった」
言いながら眠るリュダを撫でるギルバート。
エリスは思う。
彼は、どのような人生を歩んできたのだろうと。
けれど、今それを聞くべきではないと感じ、それを口にする事はしない。
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