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「たかがテントウムシの死骸のために、ご苦労なことで……」
「上のほうから、不審な点はないか何一つ見逃すなと命じられておりましてね。皆さんご理解とご協力のほどをお願い致します」
「わかりますよ」と人志はちらりと博子に目をやりながら言った。
「なにしろ親父は財界、政界に幅を利かせてましたからね。まあ、おかしな噂が立っても困る。いくらでも協力しますよ」
「恐縮です。では柏木さん、まずはテントウムシを見ていただきましょうか」
堂島はそう言って柏木を死骸の落ちている本棚の前に案内した。
本棚はベッドとは反対側の、入口のドアの左脇の壁に沿って置かれていて、壁の隙間から棚の前面にかけて、十数匹のテントウムシの死骸が散乱していた。
「ごく一般的なナミテントウですね。集団で越冬する習性があります。さほど乾燥していないし、この火事で死んだようですね」
柏木は振り返ってベッドの残骸のほうに歩み寄りながら言葉を続けた。
「で、健次郎氏はどこに?」
「そこです」
前園がベッドのすぐ脇の場所を指して言った。
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