天道虫(てんとうむし)

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「鹿の料理ですか?」と柏木が尋ねた。 「そう、この十五日に猟が解禁されたところなのさ。野鳥に鹿に猪……。ジビエ料理はあの爺さんの一番の好物だった。この森田って男、実は狩の名人でね」  管理人の森田は無表情のまま柏木に会釈した。 「夏は釣り竿(ざお)片手に渓流へ、冬はけもの道に(わな)をしかけ、キジ、ヤマドリは鉄砲でズドン、こいつが猟に出たら大漁まちがいなしだ。まあ、こんな陰気で気の利かない奴が首にならずに済んだのは、ひとえに狩の腕前のおかげなのさ」 「伯父様、そんな話は……」 「ああ、わかってるって。食事が終わったのが八時半過ぎ。俺と浦上と森田の三人は、それから二時間ほどマージャンのお相手を務めた」 「マージャンはどちらで?」 「一階の客間さ。爺様の趣味だから、全自動の卓が置いてある。マージャンが終って自分達のログハウスに戻ったのが十一時近く。それから小一時間ほどして寝室の火災報知機のベルが鳴った。あわてて駆けつけたんだが、火なんて出ていなかった」 「その時、葉巻は?」 「吸っていない。まだ夜食の途中だったからな」 「夜食?」
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