7人が本棚に入れています
本棚に追加
/35ページ
「いいえ、昼間、旦那様が外出なさっている時でした」
「ところで博子さん」
柏木は藤井博子のほうに向き直って声をかけた。
「何でしょう?」
「警報器が切ってあっても、健次郎氏は葉巻を吸ったとお思いに?」
「ええ、頑固な人でしたから」
柏木はしばらく考え込んでから質問を続けた。
「それで、森田さんが出火に気づいたのが午前一時半頃でしたね?」
「そうです」
「警報器が鳴らないのによく気づかれましたね」
「旦那様は葉巻をお吸いになるので、気をつけていようと思ったんです」
「なるほど、管理人室はすぐ近くだから、見回りにいらしたんですね」
「ええ、寝室の窓が炎で明るくなっていました」
「他に火をご覧になった方は?」
「いいえ」
博子らは口々に答えた。
「発見が早かったし、初期消火はうまくいったようですね。ベッドは焼けていても、そのすぐ下の床はほんの少し焦げているだけだ」と、柏木は焼け跡を確認しながら言った。
最初のコメントを投稿しよう!