天道虫(てんとうむし)

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 森田は声を(はず)ませてそう言うと、犬をドアノブにつなぎ、ウッドチェストに歩み寄った。チェストは造りの良い年代物だったが、新しいキャスターがつけられていて、森田は最近チェストが動かされた痕跡があることを確かめるとチェストを横にずらし、むき出しになった壁と床を調べた。  森田は床板を指先でさすり、何かが付着している箇所を見つけると、満面の笑みを浮かべた。 「ここだ!」  その部分には二ミリ程の薄い板が縦と横に一枚ずつはめ込まれていて、それを外すと床板を前後左右にずらすことができるようになっていた。  彼はここまでくれば後は簡単だと考えていたが、すぐにそれが誤りだと思い知らされた。床板にはからくり箱の(ふた)のような仕掛けが(ほどこ)されていて、外すためには正しい手順で何度も角度を変えながら板をずらす必要があった。 「あの爺いめ……」  額から汗をしたたらせながら十分ほど試行錯誤を繰り返した末に、手前が二センチほど高くなった床板が突然するりと外れ、森田は床板をつかんだまま尻餅をついた。 「やったぞ、畜生!」
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