天道虫(てんとうむし)

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「怪しいものは何もありません。しかし、かえってそこが気に入らない。何と言うか、整いすぎている……。そんな引っかかりを感じていた時に、ちょっと気になるものを見つけましてね、これは柏木さんの助言が必要だ、そう思ったんです」 「何を見つけられたんですか?」 「テントウムシです。十数匹のテントウムシが、寝室に置かれた本棚の周りで死んでいたんです。林の中のログハウスですから、寒さを逃れようと虫が入り込んでくるのは自然なことだし、それが火事で死んでも、不思議なことは何もないんですが、ただ何となく、その死骸だけが、先程お話しした、作られたような秩序から外れている感じがしたんです。私の勘だけで、何とも心もとない話なんですが……」 「わかりました。とにかくそちらにうかがいます。ただ、今日は予定が入ってしまっているんで、明朝の到着で構いませんか?」 「もちろんです。では明日」  翌朝、柏木は東京七時三十分発の北陸新幹線「あさま」に乗って、軽井沢に向かっていた。軽井沢駅の手前のトンネルを抜けたところで、雪化粧した浅間山を目にした時、十二年前の二月一日の記憶が甦ってきた。
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