天道虫(てんとうむし)

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「亡くなった藤井健次郎は辣腕(らつわん)の事業家で、長男の栄太郎を差し置いて後継者の座を勝ち取ると、精密機器の製造を中心にグループを発展させ、屈指の財閥に育て上げました。事業の規模は、父親の頃の数十倍に拡大したそうです。彼は自分が次男だったこともあって、実力主義で後継者を選び、長男の人志ではなく次男の洋次郎を次期総帥に任命しました。ところが、昨日もお話しした通り、その洋次郎が早世してしまった。そこで健次郎が後継者に抜擢したのが、洋次郎の長女、現在二十八歳の藤井博子です。東大経済学部卒業後にハーバードでMBAを取得した才媛で、後継者として任命された当初は、さすがに経験不足ではないかと危惧(きぐ)する声もグループ内にあったようですが、二年前に健次郎が軽井沢に定住すると、彼に代わってグループの中枢企業を運営し、着実に業績を伸ばしています。
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