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宗祀と宗哲
「お兄さま!」
父からの言葉を聞く前に、飛鳥は仲の良い兄宗祀の姿を見つけ、これ幸いと駆け寄って行った。
「お父さんも来ていらしたのですか。なら出かける時に、お声かけすれば良かったですね。」
「あぁ、大丈夫だ。理事会の打ち合わせがあったのでな。宗祀。お前こそ、珍しいな。目当てはこれか?」
「もちろん!彼の技法、作風は学ぶべき所が多いですから。」
よしとばかりに、飛鳥も兄の隣で再びじっくりと『西王母』を観る。父もそれに倣った。
「見事ですね…。」
「うむ…。」
しばらく観ていた兄と父は、感想とは裏腹に重い口調で、表情も厳しいまま。飛鳥にはそれがどうしてか、痛いほどわかっている。
光琳の流れを汲む藤井派とは、あまりにも違う。
派手さは全くない、ただ墨だけで描かれた作品だが。
その余白に淡く品良く浮かびあがるように色が見える。
椿は、薄い紫に。西王母の花が微かに香るようだ。
そして何より背景の何も描かれていない絶妙な空白の白が、墨の滲みを映して隠れた景色を見せつける。
飛鳥はそこに、確かな土砂降りの雨を見たのだった。
見ている自分が、全身ずぶ濡れになっていくと感じた。水煙の中で、ただ一輪の西王母の花が打たれている。
その椿が、私に訴えかけてくる。
(私は、あなたよ。)
そう語るのだった。
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