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 長谷川(いつき)。  それが、今年の日本水墨画大賞を受賞した者の名であった。  長谷川等伯の流れを汲むのではないかとのまことしやかな噂が飛び交う中、繊細で、雪のように美しい女性と見紛う姿も媒体受けして引っ張りだこになっている。  昨年京都で開かれた、あるスポーツの国際大会で、彼の作品がポスターに採用されてからあっという間に世界へと拡散され、時の人となった。  本人は普段と変わらず、京都の山麓の寺に住んで水墨画を描いている。寺の跡取り息子として育ったが、身体が弱い血すじなのか両親とも他界し、ひとりこの寺で糊口を凌いでいた。  とはいえ、報道が始まってからというもの遠方からの訪問客がどっさりとやって来るようになり、人が苦手な斎は、辟易とするしかなかった。  そんなうちのひとりが、飛鳥だった。
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