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修行
「師匠、お茶をお持ちしました。」
静々と仕草はさすが名家の育ちだ。やる事は破天荒だが、きちんと収まるところに収まっている安定感がある。いや、感心するところではないか。
「家族にはきちんと言ってあります。学業もきちんと両立させて、弟子の仕事を致しますのでお任せください。」
彼女は確か高校3年のはず。おそらく藝大を受験するつもりだろう。この時期、こんな所にいて良いはずがない。いや、そこじゃない!俺は弟子など取らん。
さて、と一呼吸置いて追い返す算段をする。
喉がからからで、つい茶を喫した斎が驚いた。
その表情をみていた飛鳥は、したり顔だ。
「ね、美味しいでしょ!私の淹れたお茶は絶品なんですよ。それにこちらは水の質がとても良く、美しいです。さすが師匠です!」
もうすでに彼女のペースに、はまってしまっている自分が情けないが、これは修行だ。あの報道以来の喧騒も、修行。そう考えることにした。どうせ彼女も学校がある。少しの辛抱だ。そう自分に言い聞かせた。
斎の良いところは、そんな柔軟性がある事だろう。いつもなるようになると腹をくくれたので、諦め上手だと宗祀に褒められた事を思い出した。
彼女はうちの構造もよく知っているようで、昔宗祀とよく遊びに来たことを覚えているのだろうか。
とりあえず、日々の暮らしを邪魔しないでくれとだけ釘を刺しておく。すると飛鳥はきちんと三つ指をついて神妙に「師匠よろしくお願い致します」と、決まり事のように挨拶をするのだった。
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