《プロローグ》御国の到来

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《プロローグ》御国の到来

ドンドンカッカッ! 広場に焚かれた焚火の周りを囃子手達が 楽しそうに太鼓を叩きながら祭りを盛り上げる。 舞台となった寺の境内には 金魚掬いや輪投げ、射的などが 活気のある声で ここぞとばかりに浴衣や一張羅を羽織って やってきた妙に高揚感の高めな雑踏の 心を揺さぶるように お世辞混じりに呼び込みをかける。 氏子達が演じる龍が音頭に合わせて 舞ってみせると 人々は歓喜に湧き 時には羽目を外す者も現れるが 後に行われる花火の美しさも相まり 全てが相乗的に高め合い 参加者を魅力する。 この年に一度の『龍神歳』は町の人々にとって在処というべき大切な存在だ。 しかし、そんな最中でも笑顔一つ見せず つまらなさそうにしている少年が射的の親父に話しかける。 「なぁ、あそこに女連れでカッコつけてるイ  ケメンいるだろ。」 「あぁ、横の彼女も浴衣の似合う美人じゃな  いか。」 忙しい祭りの商いの最中作業を続けながら 少年の言葉にも耳を傾ける。 「まぁアイツはあぁやってカッコつけてるが   人を騙す名人なんだぜ。横にいるのも彼女  じゃないし。」 「まぁ横の女も化粧で誤魔化してるだけで  スッピン見たらホント幻滅。まぁお似合い  といえばお似合いだけどな。」 「そうなんだな。それでお前は誰とも遊ばな  いのか?」 「俺はいいよ。別に遊んで貰いたくもない  し。」 少年のそんな嫉妬じみた言葉にも 嫌な顔ひとつも見せないのは、 少年の母がちょっとした 有名人だったから。、、、 〜〜母は凄すぎる。 PTAや町内の役員、仕事でも多くの部下を引き連れ それでもちゃんと俺への声掛けや配慮は怠らない。 俺には趣味や特技も特にない 何でもやってはみるのだが 中々長続きしない。 初めは上手くいくのに それ以上上達しないのは単に 練習というものが嫌いなのだ。 それでも母は小さい事でも事細かに褒めてくれた。 何も特技がないから 同世代の仲間にバカにされる事もよくあった。 家に帰って 母に色々愚痴った。 それでも母は俺の味方でいてくれた。 でも褒めて貰ってもフォローしてくれても 出来が違いすぎて なんだかその言葉にも実感が沸かない。 きっと何をしても母が出来すぎるから 比較して自分の不出来さに 劣等感を覚えるのだろう。〜〜 そういう事を知っているから 射的の親父も可哀想で少年の言葉を聞いてやっていた。 そんな少年は この祭りがいつもの祭りと少し違うと 違和感を感じ空を見上げた。
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