《第2話》亡霊の女王

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「お前、邪魔だから何もするなよ」 体育の授業中、イケメンがエノクに話しかける。彼は顔がいい事にプラスしてスポーツも出来る。だから目立つ彼にクラスメイトは言いなりだ。 「ちょっとやめなさいよ」   しかしこの子だけは違う。学級委員エダニちゃん。容姿端麗、成績優秀。 清楚だし正義感も強い。野蛮なイケメンとは 存在自体が違う。 そんなエダニちゃん憧れていた。 エノクには特技はない。 スポーツも勉強も。  だから別に目立つようにも生きてないし 憧れの存在は憧れでしかなかった。 それなのに、、、 「ちょっとあんたエダニの事が好きなんだっ  て?あんたごときが夢見てんじゃないわ  よ!気持ち悪い!!」 ただ見ていただけなのに勝手に好きとか 噂され、勝手にエダニちゃんの取り巻きの女子達が煙たがるようにエノクを排除する。 取り巻き達の壁の向こうでエダニちゃんは オロオロと戸惑っている様子。 きっと優しいエダニちゃんはこの状態も 止めたいんだろう。 でも迷惑をかけてはいけないと エノクは距離をとる事にした。 そして、祭の日、、、 エダニちゃんはイケメン野蛮男と一緒に歩いていた。 『なんなんだよ。結局エダニちゃんもあっち    側なんじゃないか。』 そうして、屋台の親父に話す。 「なぁ、あのカッコつけてるイケメンいるだ  ろ?」 そしてその日その場所で起こった出来事は 全てを奪った。 あいつら死んでやがった。 せいせいする。 街を破壊され家も学校もなくなり 誰も居なくなった事で自由になり、 あの現実が無くなったと思うと 清々しいとされ思え そのまま街を出た。 しかしそれは始めだけで 住みにくかった居場所も無くなれば寂しいもので 思い出す思い出はロクなものは無くても 戻る場所がないという事は 自分が何のために存在しているのか 生きているべきなのか 疑問に思うようになり 死んだ方がいいのかとも考えるが目を瞑れば あの日の母の最後の姿が頭に浮かぶ。 「〇〇のやつが。△△の話方が」 もう、名前も思い出せない奴の愚痴り話でも 聞いてくれていた母。 いつでも守ってくれていた母に 死んでは怒られるようで 目を開ければ結局生きてしまう。 そうして、フラフラと迷い込んだのが 『迷いの森。』 「何なんだ!?この森は!?」 そこには人の脱げた衣服や靴、 リュックが中身ごと散乱し それが何十人分かあるのに 人は一人も存在しない。 「おい!これ、食料とかは残ってるぞ!?」 誰の物なのか、どこに行ったのか 何が起きたのか、 全く分からないが何も食べずに しばらく数日歩いていたエノクにとって またとないチャンスであった。 貪るように食料を漁り、使えそうなものは 片っ端からかき集め、 それは生きるための本能。 そうして、 この森で過ごして数年が過ぎた頃、 事件は起きた。 「なぁ、森の奥へ向かってないか?」 アロンは少年が向かう先へ後を追って進む。 この少年は依頼者が探してる息子さんで この先に他にも迷っている人がいるようだ。 アロンは迷わないように念の為 持っていたパンを千切って落として行った。 「こっちにみんながいるから。」 少年が進む先。迷わないはずの森の 知らない景色が続く。 そうか。迷った人達はそこに、、、。 迷いの森の落とし穴というべき その森は昼間見た時は見渡せる程浅く 見えたのに 仄暗くなる景色のせいなのか 今は先が見えない程深く思える。 「ここだよ。」 そうして、行き着いたのは1軒のちいさな山小屋のような家。 こんな森の奥、隠れ家のように存在する家は 少年の案内で中に入ると 生活感漂う小綺麗なコテージ風の内装だ。 「みんなは出かけてるみたいだからそこで休  んでてよ。飲み物でも出すね。」 浅いと思い込んでいた森の意外な一面、 しかし、出会えた行方不明の少年との出会いとそこにいるであろう他の行方不明者の 存在にアロンは安心感からか 少年の飲み物を口に運ぶと 眠るように意識を無くしていった。 それはアロンが4、5歳だったか。幼い頃。 この行方不明の子と同じ位の時のうっすらと残る記憶。 伝説の勇者ギデオンに頭を撫でられ、 「坊や。強さよりも優しさ。誰かを守りたい  と思う気持ち。それがあれば強くもなれる  し、誰にでも勝る勇気が湧いてくるん  だ。」 憧れているから見る夢なのか、 それとも幼き記憶なのか曖昧で しかし、その言葉はアロンを突き動かす 原動力となっていた。
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