《第2話》亡霊の女王

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「でもエノクはね。練習してもどれだけ練習   しても技を覚える事は無かった。  剣技、武術、魔法、何をしても一つも。  才能がなかったんだよ。  向いている職業がないんだ。」 磨き上げられたのは覚えていた 『調べる』能力だけ。 「でも覚えた基礎は教えれる。  自分に出来なくてもエノクは他人の才能が  分かる。  だから君たちにも教えられた。」 確かにあの時僕と一緒に放った技を 忘れたようにエノクがそれから二度と使うことは無かった。 それはあの夢のような空間だから出来た事なのか 今まで同じ技を使える人間に会って来なかったから エノクは自分と同じ能力の持ち主だと思ったがそれは違っていた。 「技もない。才能もない。相手の方が優れて  いると分かっていて、それでも見極める為  に敵の前に立つ。そんな勇気のある事を  出来る彼は真の勇者だと僕は思う。  そんな彼だからみんなに勇気を与えられる  ともね。」 そうか。お互いに命を助けられた。 だから互いを信じ合える事が出来る。 アロンとエノクの間にはそんな絆があるのだ。 全てを見てきたアロンだから エノクを語る事ができた。 それを知るとエノクへの見方が変わる。 すぐにでも街の英雄を胴上げでもしてやりたい。 でも、そんなエノクは一人、 すでに街を出ようとしていた。 「やぁ今回もたいそう大掛かりに壊してしま  った。でもこれだけダメージを食らわせて  おけば暫くはベルフェゴールも襲ってこな  い。」 ガチャガチャと使わなかった武器と 壊れた武器を背負い、心証が悪いと 村人達の顔も見れずそそくさと逃げるように 極力音を立てないようにそーっと歩きだす。 「エノクさん!!」 その歩みを止める大声にビクッとして、 そ~っと後ろを振り返ると そこにはエリシャとダビデ、 その後ろには村人達。 「あ、、、俺、ちょっと急用が、、、」 その人数の迫力にすぐに逃げ出そうとする エノク。 きっと、怒られてボコボコに、、、 そう思っているエノクとは裏腹に村人達から出たのは感謝の気持ちだった。 「エノクさん!この度は村を救って頂きあり  がとうございます!御礼という程ではあり  ませんが今、村にあるお金をかき集めてき  ました。貧乏な村故、この程度しかござい  ませんが、残りはまたご用意でき次第!」 殴られるかもと 頭を守っていたエノク。 そんな村人達の頭を下げる姿に、恥ずかしくなりそっぽを向くように背中を向け 一番のカッコつけた声で答える。 「お金?それは村の復興に役立てて下さい。  まぁ壊した俺が言う事ではないんですが」 それに反応するように 村人側にいたアロンが飛び出し、 「まぁ、そういう事だから。みんな後はよろ  しくね。」 そう言うとエノクの横に並び街を出ていく。 「ありがとうございました!!」 「お前ら、頑張って生きろよ!!」 決め台詞を吐き 村人の温かい声援を背中に浴びながら。
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