《第3話》人に惑わされた堕天使

2/5
前へ
/36ページ
次へ
ギルドに戻ったアロンとエノク。 「また、カッコつけてお金貰わないから。  いつまで経ってもランク上がらないよ。」 「あの状況じゃあ貰えないだろ〜。ってか  俺も何かしたわけでもないし。それに依頼   してくるのなんて元より貧乏人ばっか。  金なんてねぇよ。」 「まぁ謙遜しちゃって。それでもみんな無事  な事が一番嬉しく思ってるんでしょ?」 ギルドとしては不甲斐ない結果でも 二人としてはいい思い出。 アロンとエノクは楽しそうに話す。 そこへ厳しい表情でやってきたのは このギルドの社長 アマレク。 「貴様!何をヘラヘラと楽しそうにしてい  る!?」 その厳しい眼差しはエノクにのみ向けられる。 「あの銅像の下に刻まれている文字をよく  見ろ!!」 そこにはこのギルドの象徴である 勇者ギデオンの銅像。 『一人を救う者は世界を救う。 私一人の命で世界が救えるのであれば それ程、多幸な天秤はあるであろうか。』 勇者ギデオンの残した言葉。 「これがこのギルドのモットー!  人の為に生き、人の為に死ねる!  目の前の者を救い、世界の為に死ねる  それこそが勇者!!それを、、、」 事務方の人が依頼の結果報告を社長に見せる。 「逃げただと!?  貴様に勇者の資格はない!!」 そこへ秘書がやってきて用を告げる。 「俺は一度ギルドを空けるが  技も覚えれないお前は逃げない根性を鍛え   ろ!それとまず!ヘラヘラしてるな!!」 そうして台風のような罵声だけ浴びせて ギルドを後にした。 「いや〜しかし、熱血漢か何か知らないけど  あんな事言われて滾る奴なんて今どきいな  いよね。」 行った事を良いことに アロンは胸の内をエノクに告げる。 「まぁ俺は昔から蔑まされるのは慣れてるか  ら。住む場所があるだけありがたく思う  よ。」 エノクはそう言うがエノクを慕うアロンの 虫の居所が収まらない。 「それでもあの言い方。ないわ〜。  僕がもっともっと稼いだ暁には  このギルドを出て  一緒に会社を作ろう。」 きっとアロンの悪口を言われたらエノクも同じ事を思うだろう。 お互いに尊重し合う二人だから 自分の事を言われても何も思わなくても 相手の事を言われると 噛みつきたくなるほど腹が立つ。 「俺たちだけの勇者の会社?  それって俺の責任重くない?  俺稼げないよ?」 エノクは皮肉のように自分を蔑んで言うが アロンは鍛える事に特化した社長アマレク 以上に教育や未来について考えていた。 「そんなの、適材適所でしょ。  例えば育成とかコンサルティング  そっちに特化した仕事をしてくれたら  君にとっても利があると思うよ。」 しかし、まぁ確かにそういうのは得意な気がずるがせっかくナンバーワンで稼いでいる アロンが辞めてまでエノクに着く 利のほうがない気がする。 「俺にとっちゃあいいけどよ。  いいとこ出っぽいお前が  そんな俺に人生預けるような事しちゃって   いいの?」 立ち振舞いからすでに上流階級の上品な  王子のような雰囲気を醸し出していたが それが確信に変わったのは いつも楽しそうに話す、アロンの 思い出の勇者の話。 「いつも話してくれるじゃん。  勇者ギデオンとの話。」 そうなんだ。その日、うっすらとした幼い記憶の中。 「許さん!貴様はこの国の跡取り!知らぬ  存ぜぬ者の為、貴様はこの国を捨てると言  うのか!?」 少し空いた扉の隙間から聞こえてしまった事。 「捨てるとは言っておりませぬ!世を守る事  が国を守る事へと繋がると申しておるので  す!」 「ならぬ!どこぞの輩が吹き込んだか知らぬ  が、国を出ると言うのなら二度とわしの前  に顔を出すな!帰る地はないと思え!!」 僕は幼すぎて 意味も立場も誰と誰が話しているかも分からず。聞いてはいけないその会話の怖い雰囲気から その場を逃げるように後にした。 そうして蹲り震えていると そこへ現れたのが彼だった。 「君は、アロンって言ったかな?」 震えてるアロンの頭を撫でる彼。 「お父さんから聞いたよ。君は剣の稽古をし  ても相手が痛がるのが嫌で逃げ出したらし  いじゃないか。」 あははと無邪気に笑う彼は一際優しくみえた。 「アロン。強さよりも優しさ。誰かを守りた  いと思う気持ち。それがあれば強くもなれ  るし、誰にでも勝る勇気が湧いてくるん  だ。君はそれを持っている。」 そう言う彼の顔がどうしても勇者ギデオンと 被ってしまうのは ギルドに建てられたこの像に 憧れているからだろうか。 十数年経った今では事実が曖昧になり わからない。 ただ、ギルドの勇者の銅像が優しく微笑みかけてくれているように見えた。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加