《第3話》人に惑わされた堕天使

5/5
前へ
/36ページ
次へ
キンキンキン。 社長と剣帝の戦いは 周りを巻き込む。 街を壊され逃げ惑う人々。 勇者ギデオンの元、バトルマスターと言われた数多の武術の使い手 アマレク。 剣聖や武神と言われ、剣の道を極め 大気の動きや物の流れまでも掌握していると言われた剣士 バフォメット。 その合間見れなかった二人が衝突した時、  放つは風を切り裂き、受けるは地まで揺れ 技は壁をえぐる。 二人以外に立ち入る事の許されぬ、 圧倒的次元の戦い。 その二人の戦いは因縁めいたものを感じる。 「おい!ギデオン。お前無茶をしすぎだ。」 20年程前。 バフォメット(45)。 「でも、目の前の助けれる命は全て救いたい  んだ。」 勇者ギデオン(28) 「お前の命も一つだという事を忘れるな!」 崖から落ちそうな命。 魔物に食われそうな命。 突風で飛ばされたが突き刺さりそうな命。 今まさに処刑されそうな命ですら ギリギリの所を身体を張って守るものだから ギデオンはいつも傷だらけだった。 そのいつでも消えそうな若くて無鉄砲な 危うい灯火にもう少し冷静になって欲しい バフォメット。 「お前のモットーだもんな。人を守って死ね  る。そんなカッコいい事はない。俺はな。  そんなお前の盾になって死ぬのが夢だ    ぜ。」 そんなバフォメットとは対象的に ギデオンに憧れ、変に祀り上げる熱血的な アマレク(25)。 「お前はアホなのだ。ギデオンが死んでみ  ろ。多くが悲しむ。お前だって悲しいはず  だ。」 「だから俺が死なせねぇって言ってるだ  ろ!!」 すぐカッとなりバフォメットに掴みかかる アマレク。 「やめなさいよ!!二人とも!!」 それを聖剣士(パラディン)の女性が止める。 そんな相反する二人はいつもぶつかっていた。 現在。 「おらおらっ!!」 アマレクが地を踏みつけるとヒビが入った 地面は大きな岩となり浮かび上がり 剣を降ると浮かんだ岩は操られるように バフォメットに向け飛んでいく。    "ジャガノート・ロック" 「ふん!」  その岩を豆腐のように軽く刻むバフォメット。 "因果陳情破砕剣" 「おらっ!」 その間から光に包まれたアマレクが 槍のように構えた剣で突進する。 「おっと!」 バフォメットはその突きを刀で受け止め弾き返そうとする。 すると、アマレクの身体の光が5本の光線となりバフォメットを突きにかかる。 " スターダスト・クリメーション" 「ぬるいわ。」 アマレクが突いた剣先を刀で擦り火花を起こしたバフォメットはそれを刃渡りで広げ 身体を包む烈火を起こし、光を相殺。 すぐに攻撃に転じ炎の斬撃をアマレクに 放つ。 "因果報復炎舞陣" 「ぐっ!おらっ!」 その斬撃をアマレクが力任せに受け止め、 弾き飛ばすと 近くの民家は斬撃によってスパッと刻まれる。 荒れる地面。壊れる民家。 その戦いを見守るしかできないエノクとアロンは被害にならないようにそして、邪魔にならないように人々を安全な場所へと避難させる。 「テンプルの話は聞いた。バフォメット!  貴様!人に仇なすつもりか!」 考えが合わずともかつての仲間。 しかし、そこには許せぬ感情も芽生える。 「笑止!守るに値せぬ!見限ったまでよ!」 その戦いの拮抗を破り、陰りが見え始めたのはアマレク。 武を極め、その先も己を鍛え続けたバフォメットに対して、 他人を鍛え、自らをおろそかにした その差。 ガラガラガラ 吹き飛ばされたアマレクの身体はギルドの壁を突き抜け 未だ見たことのないギルドの裏の顔を覗かせた。 その瓦礫から見えるのは ギルドの裏に設けられた墓。 依頼の末、人々を守り、亡くなっていった 名誉ある数多の勇者達の墓。 「ほぅ。アマレクよ。お前はギデオンの時の  過ちを尚も繰り返すか。」 許せぬはお互い様であった。 「昔の友人との再開であったが  興が削がれた。」 ギルドという名誉の裏に眠る人々。 「人の業とはそういうもの。  己の理想の為に他人を犠牲にする。」 それを作り出したのは勇者を崇高するが 故のアマレクの業だった。 「これだけの被害。ギルドの再建には時間が  かかるだろう。  目的は達した。ゆくぞ。」 そうして、突如現れた魔の使いは 多くの傷跡を残して去って行った。 ボロボロの町。中には傷を負う人。 気を失っていた猛者たちも力なく 少しずつだが立ち上がる。 その中でも甚大なのはギルド。 大破はしていないものの 中の装備品や装飾などは乱雑に乱れ 飾られた勇者達の写真も所どころに 破れる。 しかし、それ以上に甚大なのは 「私はギデオンを作ろうとしていた。  ギデオンが居れば!  ギデオンは負けていない!  少し、鍛える時間が足りなかった!  技術を磨いた  ギデオンの意思を継ぐものが現れれば  それが世界を救うと、、、。」 ギルドの冒した罪と 信頼していた者たちへの冒涜。 「その結果がこの墓の数かい?」 知らなかったギルドの裏の顔。 『一人を救う者は世界を救う。 私一人の命で世界が救えるのであれば それ程、多幸な天秤はあるであろうか。』 そう刻まれた銅像の元で失われた命たち。 「皆、名誉だったのだ!人を守り、散ってい  く。それが勇者。」 それを被害と言わず何と呼べるだろうか。 「アロン、お前なら!お前が居れば!  ギルドは再び、、、」 きっとギデオンはそういうつもりで言ったわけではないだろう。 でもこのアマレクはそれを正義と掲げ 利用し、危険な事も名誉の為と思い込ませ それをひた隠しにした。 そういう意図が無かったにせよ その自分勝手さがどうしてもそのように思わせざるをえなかった。 「あなたはエノクとは正反対だ。  人が生きる道を模索しない。」 「私がそんな奴より劣っていると言うの   か!?」 またも怒り、見下す。それはもしかしたら 民の事も。 「あなたの戦いは周りを見ず  街には被害者も多数。  勝つためには人の犠牲も厭わない。」 「強き者が弱きを守る。しかし守っていて  負けたのでは意味がない!」 「あなたは見えていない!  未来も、現在も過去の過ちも!  エノクにはそれが見えている。」 「なにを!!」 また怒りに任せて暴言を吐き出す前に 「僕はギルドを出ます。  もちろんエノクも一緒に。」 アロンはそう吐き捨てエノクとギルドの跡地を後にした。 「これで働き口も住むところも失ってしまっ  たね。」 せっかくのギルド一位の実力者。もったいないはずのアロンの行動だが、 なんだか清々したように顔も綻ぶ。 「そうだ!せっかくだからお前の国に行こう  ぜ!お前、やっと暇になったんだし。」 そういえばようやくの二人での国の外での 活動な気がする。 国を出る時はほとんどギルドの依頼だったから。 そう思うとワクワクしてきて、 冒険のような旅路の初めての行き先にエノクが選んだのはやはりアロンの故郷。 「僕の国、、、か、、、いいよ。行こうか」 その言葉にアロンは心成しか力なく微笑んだ。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加