《第4話》気高き主

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《第4話》気高き主

農業大国、マタイ。 かつて領地戦争で広大な地を得たこの 国では米、小麦、ライ麦などはもちろん トウモロコシ、トマト、葡萄などの果実まで 肥よくな大地は多くの恵みを与え、 鉱物や織物、狩猟よりも主要で大きな 財を成していた。 幸福というのは 豊かな食に育まれる。 それを体現するように人々からは笑顔が絶えず 市場では他国からも来る作物を求める者で あふれかえり活気で満ちていた。 そこへ、 黒い濃霧がズルズルと立ち込める。 その濃霧が通った跡は 花や草、森までも枯れたように死んでいく。 それは肥よくな大地でも例外ではない。 濃霧が農業大国と呼ばれる程のその広大な 大地に鎮座すると またたく間に作物を貪り食っていく。 そうして、残った乾いた地では 作物は育たなくなり 飢餓に苦しみそして、街ごと死んでいく。 飢餓とは 最も苦しい生き地獄。 食料が朽ち果て生死の堺となれば あわれみ深い女たちさえ、自分の手で自分の子どもを煮て、自分たちの食物とする。 剣で殺される者は、飢え死にする者よりも、しあわせであった。 すべてを食い尽くした濃霧は 消え、 再び飢えを満たすように現れては 死を招く。 まるで悪魔の所業。 死を司る自然災害。 それを人々は形容してこう呼ぶ。 現れたら最後。 待つのは死のみ。 死を司る冥界への使者。 "冥界の王 ベルゼブブ"。
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