《第4話》気高き主

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エノクが初めて預かった軍隊の司令塔。 今まで無理やり村人に戦わせたり 初心者に剣を握らせ戦わせたのとは違う。 初めての軍を任せられての戦闘。 「剣術隊!!素振りだ!!」 死の霧、ベルゼブブ相手でも それはあいも変わらずの練習兵を使う所から始まる。 「魔法隊!!炎の魔法!!」 まるで普段の練習のように剣や魔法を振るう 町人。 それは実戦を交えた実験。 『もしも、これが霧なのであれば  飽和水蒸気量が多い状態。  水蒸気を飛ばすか  湿度を下げれば自然と消える。』 しかし、剣術隊の剣圧で飛ばそうとしても 魔法隊の炎で湿度を下げても 水蒸気は消えはしない。 「やはりか、、、。」 全く効果はなく残る霧。 そこへアロンが剣に光を溜めながらやってきて攻撃体勢のまま走って逃げる。 王を助ける際に霧を目の前で 目の当たりにしたエノク。 あれは煙や水蒸気の類ではない。 近くで見ると波打つように蠢き 意思があるように狙いを定めて動いている。 王がやられたのもしかり。 この何かに噛まれたような無数の傷に 俺が助けに入った時にも感じた 刺すような痛み。 骨だけ残す。 さらには霧の中に見える 表示。ベルゼブブ。 それはそこに実体が在ることを示している。 ではなぜ、捉えられず 見ることが出来ないのか。 畑の農作物を枯らし 家の柱や壁までも。 巻き込まれた人は腐食するように 骨になる。 大きな剣だけは残される、、、 そして、俺に付いた黒いスス。 霧のような気体では黒いススはできない。 これは何かが燃えた跡。 その何かとは、、、 それが有機物のみを捕食している固体、 つまりは捕らえられない程見えない ちいさな捕食生物それが正体。 「ベルゼブブは虫の集合体。」 減らない表示。 それは減らないんじゃなく 倒してはいるが数が無数に存在するから。 風のように軽く目に見えないほど細かく 散って分散する。 だから霧に見える。 『でもどうやって倒す?  そんな生物。』 虫は事あり単体でも地球上で1京匹ほどいると言われ 一日に換算しても 数千兆匹が生まれては死ぬ。 動植物合わせて60%を占め 動物の中では75%を占める種、それが虫。 「そこでだ。」 アロンの光が虫達を誘導。 王が襲われた時、 他に見向きもしないほどの密度で 王の光に寄っていた。 つまりは虫は光に集まる。 そうして、アロンが呼び込んだ場所には 町の松明を燃やす為の沢山の薪。 「薪は木だ。虫は貪るように薪を捕食す  る。」 しっかりと集まった虫を魔法障壁で囲う。 障壁というのは守る意味もあるが もう一つ 「君の出番だ。デボラ。」 それは練習でヘマをしまくっていた ヘッポコ魔道士。 「いけ!!」 「うん!!、、、"ヤハ"!!」 デボラのノーコン魔法が障壁に当たり跳ね返る。 この作戦の鍵はデボラ。   《魔道士》デボラ レベル28 体力2130 魔力6280 攻撃力105 防御力283 素早さ350 彼女の魔力は他と比べてずば抜けている。 ただ、それに見合う身体ではない。 単純に言うと、子供がバズーカを撃つようなもの。 威力がありすぎて操作が出来ない。 しかし、外れても跳弾するようにすれば。 「連打だ!!いけ!!」 そして、そのでたらめな魔力は まるでマシンガンのように連発しても 尽きる事はない。 「剣術隊、魔術隊は  虫たちが溢れ出てこないように援護!!」 もし、障壁から虫が逃げ出そうとしても 剣術隊の突風や魔術隊の炎で援護して閉じ込める。 三人将の攻撃は威力が強すぎた。 故に無駄にふっ飛ばしてしまい 細かい虫は散り散りになり 逃してしまう。 それを細かく当てる事で 一つ一つをしっかり捉え 何度も跳弾した魔法はより威力を増し 連打する魔法は逃げ場を失い 増幅するようにその場でひたすら滞留する。 「いけいけいけいけ!もっとだ!」 小さな攻撃でも一つになれば どんな魔法より勝る威力となる。 「心に火を灯せ!それが例えちいさな火だっ  たとしても、一つになればやがて大きな火  となる!」 ドゴーーーン!! 薪の効果も相まって 爆音と共にデボラ一人の魔法が まるで一本の大きな火柱の如く 虫を焼き払い燃え上がった。   "希望の聖火(レビ・トーチ)!" それは諦めずに灯し続けハマンを破った モルデカイの炎そのものだった。
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