《第4話》気高き主

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一人の力で死の霧を撃退したデボラ。 それを導いたエノクとアロンを皆が称える。 「まるで英雄のようじゃないか。」 エノクは慣れていない扱いに照れくさくなる。 「いや、君は紛れもなく英雄だよ。」 「今回も何もしてないぜ?頑張ったのはみん   なと、そして、、、デボラ。」 隠れているデボラを矢面に立たせ 一番の国の英雄に拍手を贈る。 「デボラ!!よくやったわ!あなたは私達の   誇り!!」 それに一番喜んでやってきたのはデボラの両親。 ようやく落ちぶれていた娘が開花してくれた。魔道士の一家にとって魔道士の才能が あってくれた事が何よりの救いだった。 「ありがとう。」 皆の前で両手を握る両親に対し 感謝の言葉を述べたデボラの表情が 固く曇っていたのが印象的だった。 そうして、次の旅への旅支度を始める エノクとアロン。 今回の戦いで全てが通じない敵に対する 恐怖を感じた。 「エノク、君はいつもこんなような  高い壁を目の前に感じながら  戦ってきたんだね。」 技が効かないとは技がないと同等。 そんな中で戦うエノクに対し アロンはさらなる尊敬の念を覚えた。 「いやいや。俺なんてまだまだ。アロンなん   てどんどん強くなってる気がするぜ。」 「いや魔王軍の剣士にも手も足も出なかっ   た。もっと強くならなくては。」 その話を聞いていた国王。 『魔王軍の剣士、、、バフォメットか。』 「おい!アロン!」 旅立とうとするアロンに声をかける。 それはまだアロンが幼く王の父と シオン国を訪問した時の事。 初めてみるギルドという物に 心躍り そこに崇められていた像で 初めて勇者という者を知る。 『あの人って夢の中の、、、』 そう幼心に結びつけ 憧れるように勇者になることを目指した。 でも レビでは 勇者になるどころか ギデオンの名を出す事すら 禁止されていた。 「僕は伝説の勇者のような勇者になりたい」 「そうか。勝手にしろ」 そう言って家を飛び出たアロン 実は父からの言伝で派遣会社社長へ伝わっていた。 「アロンを頼む。」 特別扱いのように全てを伝授され、 大切に教育された。 エノクと家に帰った日 「何だお前か!出ていった奴がどの面下げて帰ってきた!二度と俺の前に顔を出すな!」 それは家族の覚悟だった。 兄と同じ勇者にそぐわしい素質を持っている事は父もわかっていた。 しかし、それは父にとって 離別を意味する。 父の父。アロンの祖父がギデオンに 告げた後。(アロンの見ていた) 「お前は兄のようにはなるな!」 父の父は期待していたギデオンの裏切りに 失望し 弟であるアロンの父に 王位の継承を考える。 父も期待に応えるように努めた。 しかし一つ違うこと。 「兄さんは魔王を倒して英雄になったん  だ!!」 汚点であるギデオンの存在を無いものとし 国では語る事を禁じられていたが 憧れの兄さんの活躍は嬉しかった。 だから伝説の勇者のようになりたいと アロンが言った時は 嬉しかった。 しかし同時に勇者の運命も知る。 レビがギデオンの故郷という事で 魔王軍に狙われた事は 数しれず。 鍛えていたが故、大事には至らなかったものの 万が一アロンが勇者となった際に 国が襲われ、捕虜にでもされてみろ。 弱者が足を引っ張り 世界を救うという大義の道から逸れてしまうかもしれない! まぁ反面教師というやつだ。 父は国を守ろうとするあまり 兄を切り捨てた。 ならば息子が勇者となった時。 その時は世界を守る為に国を切り捨てる! いやしかし、私はレビを昔以上に鍛えた。 私達レビは襲われようと捕虜にされようと 負けはしない! 父は全てを心に秘め アロンに告げる。 「分かってるよ!早く国から出ていけって事  だろ。」 「バフォメットは聖剣の使い手  対するなら聖なる心を磨け。」 たった一言の助言だった。 でも拒絶をされていたような今までとは 違い、その言葉はアロンにも 応援してくれているように聞こえた。 『気に病む事はない!  だからお前は真っ直ぐ進め!!』   父はひたすらに息子の未来を願った。 ああ知ってるよ。 アロンはわかっていた。 国を守ってきた父をみんなが慕ってる。 だから筒抜けなんだよ。 「国王はあんな事言ってるけどな、いつも 『手厚くもてなしてやれ!』とかちゃっか  り伝えてるらしいしな。愛されてるよお前  は。」 そんな事を帰ってくる度、 要所で伝えられる。 今まではそれに散々甘えてきた。 でも僕は進むべき道を見つけた。 「行ってくるよ  お父さん。」 二人の決意がすれ違い、でも 目指す先は同じ。 ギデオンのような勇者に! その決意を胸にアロンは再び故郷を後にした。 荒野を歩くエノクとアロンの元に駆け寄る 少女。 「待って!」 「わちしも連れて行ってくだしゃい。」 こうして仲間が一人増え 勇者の旅は続く。
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