《第5話》人の信頼する者

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〘荒廃都市〙テンプル かつては平和で栄えた都市であったが 一夜のうちにたった一人の男により 全ての住民が虐殺され滅ぼされた町。 何年かたった今でも当時のまま 時が止まったようにすべてが残されている。 俗に言う『テンプル大虐殺』。 なぜ、何もないこの街に寄ったかと言うと。 「バフォメットを倒したくばテンプルに寄る  といい。」 レビ国王からの紹介でテンプルに居るという 光を学べる者を尋ねる為だ。 「いや〜しかし、なんちゅー不気味な町  だ。」 昼間なのに明るさを感じない ジメッとカビ臭く湿気ているような町。 建物のガラスは割られ、カラスやオオカミなどの動物が自然とのさばり 時計やキッチンや棚といった無機質な物と 苔や植物などが同化し 「ひっ!」 デボラが踏みそうになった動物なのか人間なのかも分からない骨が、乱雑に放置されているのがこの町がどれだけ腐敗してしまっているかが知覚できる。 「こんなとこりょに人がいりゅのでしょう  か?」 おそらくこんな街は国王からの話がなければ 詮索もしないだろう。 「人はみんな虐殺されたらしいからね。きっ   とまだ彷徨える魂達が幽霊となっ  て、、、」 「ホントでしゅか!?あちし帰りましゅ。」 アハハハ。 こんな不気味な雰囲気でも明るくデボラを からかうアロン。 「まぁ怖いと思ってしまうと余計怖くなって  しまうからね。こういう時こそ、明るく  ね。」 どんな時でもプラス思考。 いつも勇気を与えてくれる。 そこがアロンの良いところだ。 「所で、エノク。何か見えるかい?」 いつでも冷静に、状況を分析して 物事の真理を解明する。 エノクの見破る能力には街の詳細、 動く物がいればそれが何なのか、 見える範囲であればある程度調べる事が出来る。 「そうだな、、、野生の動物は結構いるみた  いだけど、、、ん?」 武器屋や宿屋などかつては人が生活していたであろう建物を調べていると、 ある場所に違和感を感じる。 「あそこの"パブ"。誰かいるぞ。」 そこには姿までは見えないが 動物とは違う、たしかに生きている人の 存在を捉える事が出来る。 「お化けだったりしてね〜。」 「もう!やめてくだしゃいよ〜。」 そう言いながら恐る恐るパブの戸を開ける、 アロンとデボラ。 薄暗い部屋の中、他に居るのは骨や虫。 そんな中に一人テーブルで酒を飲む男。 アロンとデボラが男を見つけたのと 等しくして エノクは気配を感じ振り返る。 チョイチョイ。 物陰から覗く人はエノクをちょっとこっちにおいでと呼び出す。 パブでアロンとデボラが出会ったのは 身なりの貧相なおじさん。 荒廃した街に残された食料と酒で 一杯やる。 「ぬしゅっとかよ!」 いや、待てよ。そういえばこの街は 一人の男により滅ぼされたという。 まさか、、、この男が、、、!? 「まさか、、、あなたがこの街を!?」 アロンが剣を構え警戒しながら聞くと 男は軽快な言葉で返す。 「警戒に軽快、ぷふっ!いやいやいや  俺はこの街の人間じゃない!ただ、  この街の食い物を頂いてるだけだぜ。」 「やっぱりぬしゅっとじゃないか!」 デボラの言う通り盗人だったこのへんてこ親父は自分の言い分を通すように主張する。 「まてまて、俺はフラフラしてたら妻も帰る  家も失ったんだ。そりゃあそこに飯があれ  ば食いもするだろ。」 「しょれをぬしゅっとって言うんでしゅ  よ!」 開き直ったような主張。きっと普段から だらしない男なのだろう。 「フラフラしてたら妻を失ったって、奥さ  んずっとほったらかしで遊び歩いてたんで  すか!?」 「遊び歩いてたなんて失敬な!俺は遊び人だ  ぞ!そりゃあフラフラもするだろ!」 自分の失態を正当化する主張に 呆れたアロンもため息交じりにへんてこ親父に呟く。 「はぁ、、、そりゃあ奥さん失いますよ。」 この人が国王の言う、光を学べる者だろうか。いや、光からかけ離れてこの街に溶け込む様はどう見ても闇の住人だ。 「ほんとに、このょひちょが?」 「いや、流石に人違いな気がする。」 「お〜〜い!」 そこへエノクが戻ってきて二人に伝える。 「見つけたぜ!」 そう言い連れてきたのは、 「ちょっと待てよ、、、この人って、、、」 エノクやアロンは何度も見て見覚えのある。 そしてアロンにとっては憧れで 勇者になるきっかけを与えた人物。 「勇者ギデオン!!?」 ちょいちょいと呼びだされ エノクが出逢ったのは 死んだはずの伝説の勇者ギデオン。 〘伝説の勇者〙ギデオン レベル −− 体力−− 魔力−− 攻撃力−− 防御力−− エノクが見破る能力の表示にも 確かに写る伝説の勇者ギデオンの文字。 見えない能力はきっと殿堂入りした証 なのだろう。 「間違いないの!?」 アロンは憧れのアイドルに出会ってしまった かのように挙動不審になりながら エノクに尋ねる。 「ああ!間違いないぜ!」 光を学べる者はギデオンだったのか。 確かに伝説の勇者なんて光の使徒の代名詞の ような存在であるし ギデオンはレビの血筋だ。 国王が生存を知って誰も居ない地で 匿っていたと思えば辻褄が合う。 どんなサプライズだよ! そんな歓喜の気持ちでギデオンを囲み、 4人で楽しそうにその場を後にした。 へんてこ親父。 「ギデオンねぇ。ほ〜っ?」
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