《第5話》人の信頼する者

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「ほぅ。レビの国王が私に。」   『聖なる心を磨け』『バフォメットを倒したくばテンプルに寄るといい』国王からの話をギデオンへ伝える。 「光の技か。確かに教えるとしたら私になる  かもしれないね。ただ、、、」 そういえばバフォメットはギデオンと共に 魔王ベリアルを倒した勇者御一行だったはずだ。バフォメットの事には詳しいだろう。 それに勇者といえば光の使徒のイメージ。 国王の言うのはギデオンに間違いがない。 「教えるなら君だけだ。アロン。」 「私の技は君にこそふさわしい。」 しかし、そのギデオンはアロンのみを指差し あとの者には興味がない、という感じで アロンへ肩を組み背を向けて行ってしまう。 「え?、、、でも、、、エノク達は?」 「彼らには少し待って貰えばいいではない  か。君はバフォメットに勝ちたいのだろ  う。」 そうだ。ここへはまずはバフォメットを倒すために、その方法を探りに来た。 それにアロンにとって憧れのギデオンと 共に出来る最高の機会ではないか。 「行ってこいよ。」 絶対アロンにはその方がいいと、 エノク達はアロンを見送った。 しばらくすると、 今度は物陰からチョイチョイと ギデオンがデボラを呼ぶ。 なるほど、そうか! ギデオンは順番にそれぞれに適した事を教えてくれるんだ。 何とも勇者らしい。 物陰へ消えていくデボラを一人エノクは見送った。 「君はデボラと言ったか。確かラピドに捨て  られた子。何故君が捨てられたか分かる  か?、、、出来損ないだからだよ。」 分かっていた事。気付いていた事。 それを伝説の勇者に言われた事で、 真実味が一気に増し、過去の記憶が デボラの心に強く突き刺さる。 デボラの両親はしがない魔道士。 しかし、子に恵まれなかった家にある日 幸運が訪れる。 「すみません!どうか!お願いが!この子  を!育ててやってくれませんか?」 急ぎ足でやってきたその子。 ちんまりとした小さな子に両親は 小さなハニー(ミツバチ)という意味のデボラと名付けた。 愛してやまなかった両親だが それが豹変したのは 子を連れてきた母が国の魔道士の名家ラピド家の妻であった事を知ってから。 ラピドでは最高位の魔術の伝承のしきたりで 子は一人、長子のみ生かされ、 他に産まれた子は全て殺された。 しかし、愛し合うラピドの夫婦の間に出来てしまった次女。 許されない子を宿し、 しかし降ろされそうになるも せっかく宿った命の鼓動を殺せず 母は密かに産みおとす。 それを知った一族は母を責めたて 強く捨ててくるように言った、 王国最強の血を継ぐと知った両親は期待するあまりデボラに厳しく当たる。 才能のないデボラは常に蔑まされ その日も魔導の練習で失敗して 帰った。 すると、両親がヒソヒソと話す声が聞こえてしまう。 「なぜ、デボラはあんなに出来ないのか。」 「ラピドの血筋のはずなのに。」 「やはり、捨てられた子は捨てられた子  か。」 そうして知った自分の出生。 デボラは全てが嫌になり 泣きながら家を飛び出る。 それは大きな満月が出る夜。 丘まで登るとより大きく見える満月の姿、 その魔力に魅力される。 そこにまるで見合う絵のように 佇む人。 それはラピドの長子。 美人で、才能も家柄もいい。 この人が、、、 自分が捨てられる原因ともなった存在。 恨みが生まれるはずが その姿につい見とれてしまう。 この人と私は 月とスッポン。 「あ!」 長子がデボラに気づく。 それに恥ずかしくなり逃げ出すようにその場を後にした。 しかし、話はどこからか漏れるようで デボラがあの時の子供だと知った ラピドの主はデボラに厳しく あたるようになる。 魔術の訓練でも 家でも厳しくされ、 居場所がなく逃げ出したい。 思い出に押しつぶされそうに廃墟の瓦礫の下 小さく蹲るデボラ。 それでもギデオンに言葉で突きつけられた 現実に、幻覚でも見ているように いるはずのないラピドの長子、つまりは 三人将の女性魔道士がうっすらと姿を現す。 「あにゃたのせいで、、、。」 デボラは瞳に涙を浮かべながら、その幻影を振り払うように払い除け、 「こにゃいで!!」 その場から逃げるように走り去る。 『あちしは捨てられた子。見た目も才能も  家柄も。月にはにゃれない。』 レビでベルゼブブに勝ち、皆に讃えられている際も、 「お前は私達の誇りだ。」 まるで掌を返すように、今までの事を 英雄になった途端、優しく接してきた両親。 『うしょつき!ずっとずっと落ちぶれ者と  思っていたじゃない!恥しゃらしと思って   いたじゃない!』 そう思っていた。多人も両親も 自分自身でさえも。 そんな所に現れたのがエノクだった。 「君には俺と違って才能がある。」 そんなデボラを唯一信じてくれて、 戦いの最前線に置いてくれ、 才能の活路を見出してくれたエノク。 「あれ?エノクは?」 涙を拭い正気に戻り、現実を見ると 同じくギデオンに見捨てられたはずの エノクの姿が見当たらない。
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