《第5話》人の信頼する者

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そうして、ギデオンが最後にやってきたのは エノクの元。 「エノク、、、どこかで聞いた事があるな。  確かサタン様に滅ぼされたヨブの。  アワンの子で落ちぶれ者のエノク。よく  あの被害の中生きていたな。街を見捨てて  逃げだしたのか?」 ふと、暗闇から聞こえて来るギデオンの声。 それは紛れもなくエノクに対して、 いや落ちぶれ者に対して嫌悪感があるのか エノクの心をえぐるような口調で 精神を揺さぶる。 「何故だ?他人の方が優れていて嫌気がさし  たか?死んで当然とでも思ったか?」 その言葉の一つ一つに エノクの中の闇を引き起こされる。 ヨブ、、、そこには苦痛しか無かった。 皆に馬鹿にされるばかりで嫌気がさし でも家に帰ると母が愚痴を聞いてくれる。 それだけが支えだった。 しかしその日父さんが久しぶりに帰って 来た日、普段強い母が 父さんに愚痴ってるのを一度だけ聞いた事がある。 「あの子はね。何もできないの。」 「あなたに似て。」 「いつも話す事は人の話ばかり。」 かすかにしか聞こえない声も 母と父が馬鹿にするかのように 笑っているのが分かる。 『親もやっぱりそう思ってたのか。』 当時はそう思い、自分に対する失望と 親に対する落胆の気持ちを覚えた。 「何も出来ない」「邪魔者」「落ちぶれ者」 そう言われるのは街を出てからも続いた。 迷いの森でアロンと共にサキュバス、インキュバスを倒したエノクは その快挙を讃えられ シオン国の勇者の派遣会社へ推薦させる。 そこは勇者の育成の為に いかなる武術や魔法も学べる場所。 エノクはそこで鍛錬する事となる。 しかし才能というのは世の中に確かに 存在して いくら基礎を習い鍛錬しても レベルが上がっても 他の人が得れるものを得る事ができない。 技も魔法も何も習得できない。 磨かれるのは 迷いの森で覚えた 「調べる」能力のみ。 この能力で相手のレベルや能力や弱点が分かるも自分の才能を見ることが出来ない。 自分の才能がわかればどれだけ楽だったか。 倒す術のないエノクは 会社の依頼で派遣された先でも成果が上げれられない。 「なんだ、あいつが勇者か?」 「何も出来ない勇者なんて聞いたことがな  い。」 「俺たちの足は引っ張るなよ。」 それは子供の頃、ヨブで受けた扱いと同じ だった。 『何で俺だけが、、、』 『何か変わると思ったのに』 何も出来ないエノクが受けた派遣先では 逃げる、逃がす事に特化した。 それが何も出来ない自分が出来る せめてもの事。 そこは陥落されるか、 自分たちの力でそれぞれで何とか生き延びるか。 そんな勝てない 逃げ出すエノクは 罵声を浴びせられる事もあった。 「それでも生きていないと  幸せも掴めません!  名誉の死でも悲しむ者はいます!  恥をかいてでも逃げる事で  生きれるなら。今は逃げましょう。」 そう、生き延びた民へ話すエノク。 それはなんとなく記憶にあり、自分が支えにしてきた信念。 親の言葉に落胆してもそれでも信じてこれたのはそれだけショボい人間だと自分自身が 一番理解していたから。 母はこんな俺の話でも聞いてくれて 失望して見捨てたかっただろうに いつも笑って側にいてくれた。 それだけでよかったんだ。 『別に無理に戦う必要はないの!やばいと思ったら逃げる!いい!逃げるの!その勇気も必要よ』 エノクはいじめられた過去に母に言われた言葉を思い出していた。 だから何かあると身体が勝手に動いた。 『いい!逃げるの!!』 『生きてさえいれば必ず幸せは訪れるから』 そんな母の言葉を信じていた。 でも、本当は、、、。 ホントはアイツらみたいになりたい。 アイツらばかり特別扱いされて。 惨めな想いをするのはアイツラのせいだ。 そんな他人への嫉妬ばかりが募った。 ギデオンの声 〜知っているか?  蛇は嫉妬をしてアダムとイブに  知恵のりんごを食べさせた。  嫉妬というのは人を破滅へと導く  君が導けば人々は滅びへと進んで行くだろ     う。〜 確かにそうだ。 ある日エノクは少女の街を救う。 いや、逃してなんとか生きながらせた少女には家族はおらず あるのは『居た』という思い出だけで 辛い日々を送っていた。 そんな少女の思い出の品ごと 陥落してしまった村。 少女は言う。 「家も思い出も失って  何支えに生きて行けばいいのか。」 それを聞きエノクは 生きているだけでは駄目だと 気づく。 〜君は勇者には向いていない。  君は他人にすがりたいだけだ。  誰にも認められない奴が世の中を救って  誰が喜ぶというのか。〜 そして何もできないエノクは いつも気遣ってくれる友人のアロンに八つ当たりをしてしまう。 エノクとは対象的に勇者ランクトップで 何でもできるアロン。 「何でもできる君には俺の気持ちはわからな   い!」 「でもそんな僕は君に救われていなければこ  こには居なかったよ。」 君が請け負った仕事は 被害者0。誰も死んでいない。 その事実に気づいていたアロン。 「そんな記録を残せてるのは君しかいな  い。君に感謝してる人も多いはずさ。」 それが気遣っている言葉ではなく 本気で話してくるのが凄く伝わるのは 輝いた目で間髪入れず話してくるから。 「君の調べる能力は  どこまで見れるんだい?」 「へぇ相手の才能まで  それで敵の弱点が読めるんだよね。」 「もし、その子が戦えたら?」 「少し戦えるだけの僕が言うのもなんだけど  生きる為の戦いをしたらどうかな?  君らしく!」 『君の能力は未来を見れる能力なんだよ』 きっと心から信じていたんだろう。 エノクの力は誰にも負けない!と。 「ものは試しにどうだい?一つ仕事でも。」 そうして ベルフェゴールを倒しヘルモン村を救う事に成功した。 誰にも認められない、、、 アロンだけは違った。 「それでも俺は、一人が信じてさえくれれ  ば!そいつの為に頑張りたい!」 アロンが信じてくれている限り、裏切る訳にはいかないんだ。 『なんだ。面倒くさいな。折れなかったか。  結局力ずくになってしまうな。』 そうして、密かに潜む闇の目を その男は見逃す事はなかった。 「いや、お前はギデオンではないな。」 そう言いながらやって来たのは パブにいた、へんてこ親父。 「ギデオンは左利きなんだよ。あとな、  ごまかしてはいてもお前からは  腐敗の匂いがする。」 そんなへんてこ親父をテンプルに来てから 初見なのはエノク。 そんな二人はまさかの再会であった。 「あなたは、、、父さん!」
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