《第1話》ペオル山の主神

4/8
前へ
/35ページ
次へ
「ぜぇぜぇ。やっと着いた、、、。」 村に到着した青年と少女。 彷徨ってギルドに到着した事で 行きの時間よりはるかに時間をかけ、 汗だくで倒れ込むように 少女は入口にへたり込み 青年は槍と棍棒を両手に天を仰ぐ。 見ると二人ともなんだか荷物が増えている。 それもそのはず、 村に着く前にペオル山を登ってみたいと言う勇者エノク。 静止も聞かずひょいひょいと登り始め なくなく二人は着いて行く羽目に。 でも途中で 「あ、ちょっと寄ってくとこあるからお前た  ちは先に村へ帰っていていいよ。ほれ」 と、自分の荷物を二人に預け レベル70らしい やたらアクロバットな動きで 一人山を登って行ってしまった。 「勇者様は魔物達を倒しに行ったのだろう  か、、、。」 「、、、そうじゃない?」 「、、、でも武器を一つも持たずにか?」 色々疑問が残る旅。 素敵な勇者との旅路、、、 のはずが 泉に物を投げ込み鰐に襲われ、 湿地で大蛇の寝床に入ってしまい襲われ 森では大きな熊に襲われた。 からがらでなんとか持っている武器で追い払い逃げ延びてきたものの。 なにぶん、この勇者の動きはやたら アクロバットで目立つ。 しかも無駄に声も大きいものだから すぐに動物や魔物に襲われた。 それでいて、武器の扱いになれていない農民の二人に「槍は腰を落として」とか 「剣はしっかり振り切る」とか指示ばかり 出して自分は飄々としている。 勇者の身軽な動きに着いていくのもやっとなのにそれに加えてこの荷物。 二人の疲労は限界だった。 でもやっと着いた矢先に待っているのは この魔物が支配する地獄の街。 「おい!貴様ら何処に行っていた!!」 休む間もなく思い出させるように現実が突きつけられる。 「貴様ら!こっちへ来い!」 へたり込む少女の髪を魔物が引っ張り引き 釣り出す。 「止めろ!!」 つい出てしまった言葉に青年はとっさに口を抑える。 「止めろ、、、だと?」 魔物は少女の髪から手を離すと青年に向かい 持っていた鞭を振りながら近づく。 青年は思い出される恐怖でたじろみ 身体が硬直して動かない。 すると、遠くから大きな声が村に響き渡るように聞こえてきた。 「助けてくれ〜〜〜。」 「え!!??」 何事か理解できない助けを求める声がこちらの方へ大急ぎで向かってくる。 「助け、、、」 そう言い暴走するような勢いで入ってきた 大きな荷車は 青年を襲おうとしていた魔物に直撃。 ヘブッ!! 魔物は思い切り荷車に轢かれて ピクピクと気を失った。 「あ!!」 その荷車を引いて来たのは勇者エノク。 そして、その荷車には作物が沢山乗せられている。 騒ぎを嗅ぎつけ村人が集まってくる。 そうして、見つけた荷車は 「そ、それは私達から収穫した、、、」 それは村人が魔物に搾取されていた作物だった。 「おう!取り返してきたぞ!」 村の老人が歓喜のあまり震える手で 荷車の作物に触れる。 「では、、、魔物は、、、あなた様が。」 そんな喜びを他所に村の地面がまるで地鳴りのように揺れる。 「ねぇ、、、そういえば助けてって、、、  まさか、、、。」 するとエノクが降りてきたペオル山の方から雪崩れるように魔物の軍勢が降りてきているのがわかる。 「あんた!!?何してくれた!!?」 青年が聞いたことのないいつになく険しい顔で突っ込む。 「あぁ、作物を取り返すついでにちょいと  あちらさんの集落をぶち壊してきた。」 恐ろしい顔に激怒した魔物達が 一目散に村に逃げ込んだ勇者を見て 村の関係者だと認識。その怒りの矛先は 村へと向かっていた。 「なぁなぁこれってまさか、、、」 そういえば青年はギルドでの周りの反応を思い出す。 『プププププ』 『可哀想になぁ。』 やたら重い荷物。旅の道中での災難。 『エノク!今日も頑張ってこいよ!』 嫌味のような言葉もピースが繋がるように 今押し寄せる魔物の姿で結びつけられる。 「おい!!貴様ら!!この村の未来はもう無  いものと思え!!」 泣きべそをかきながら青年と少女は 見つめ合い、理解した。 勇者エノクの紹介の横に輝いていた文字。 これが、、、勇者ランク、、、E。 「可愛そうなのは俺たちの方か!!」 「何をしている!お前たち!急いで逃げる  ぞ!!」 せっかく取り返してきた荷車を他所に 気付けばもう青年と少女の荷物はない。 全てエノクが持って真っ先に走り出していた。 「え〜〜!!??」 何ていう逃げ足の速さだろう。 そうして村人達は散り散りに逃げ出した。
/35ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加