《第1話》ペオル山の主神

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〜〜園を守るケルビムは、翼を広げ   我らの栄光は   彼の者の飛び立つ先にある〜〜 これはこの村に伝わる言葉。 ペオル山に住むと言われる神の使いが 降り立ってこの村に栄光を与えた。 村の者なら誰もが知っている伝説。 少女は身を潜め時が過ぎるのを待っていた。 魔物に怯える恐怖。 数年前から続く習慣に身体が覚えているかのように自然と震え蹲る。 そんな日常を邂逅する為にやってきた勇者。 、、、のはずだった。 「よう。俺も入れてくれよ。」 「え??」 せっかく隠れているのにそこに割り込むようにやってきたエノクは 許可もしていないのに隣に座り込む。 「なぁ。そういえば聞いてなかったんだけ  ど、お前、名前は?」 「タイミング!今そんな事言ってる場合じゃ  ないでしょ!!」 「いや、ずっとお前って呼ぶのも悪いし  さ。」 間の悪いエノクの言葉に呆れてくるが それでもこの村を救いに来てくれたのはギルドでも彼だけだ。 そう思うと自己紹介はしっかりしないと、 と、少女は名前を告げた。 「エリシャよ。」 「そうか!そこに居たのか!!」 そんな二人が隠れる路地裏の板を持ち上げ 現れた魔物。 元より声の大きいエノクと会話をしていれば必然、すぐに見つかってしまう。 「キャーー!!」 逃げ出そうとするエリシャ。 その手に剣を握らせると 「振り切るように撃て!」とエノクは背中を押すように言葉を掛けた。 「え!?」 エノクを見るとうんうんと頷いている。 「え!?」 もちろん目の前の魔物にもしっかり聞こえていて、魔物はエリシャを睨みつける。 何!?この状況!? 目の前には魔物。後ろには何も持たない勇者。 それが取り囲むのは剣を持つ齢12歳程の筋力もないどう見ても剣と不釣り合いな少女。 魔物もそんなの当然攻撃してこれる筈がないだろうと思っているだろう。 でもこのままでは魔物に襲われる、、、。 「破れかぶれよ!!」 エリシャはエノクに言われるままに 剣を全身の力を使って振り切った。 ブオン!! 音と共に切り裂かれた魔物。 その空を切るような斬撃は衝撃波となり 切られた魔物を身体ごと吹き飛ばす。 「え?、、、凄い、、、。」 ドカッと地に落ち、力尽きた魔物を見て 剣から発せられた力に 今まで震えて入らなかった 力がなんだか身体の内から湧いてくる。 「風を掴むように切り裂いてみよ。」 まるで剣技の使い手のようなそのエノクの言葉。 しかし、その肝心のエノクの姿は気づいたら消えていた。 「なんだか凄い音がしなかったか?」 音を聞きつけ2体の魔物がエリシャの元へ寄ってくる。 でも手応えを感じたエリシャは 今度はしっかり地に足を着け、魔物の方を 見据えて 構えた剣で風を掴むように空を切り裂いた。      ""真空斬!!"" 5人の村人が魔物に追われて逃げる。 魔物は4人。それでも力の差は歴然で 囲まれてしまえば手も足も出ないだろう。 とにかく逃げる。 その中には旅路を共にした青年もいた。 そんな逃げる青年の横を勇者エノクが並走する。 「あ、勇者。」 「あ、確かお前はダビデとか言ったね。」 やたら早いランナーのような走りのエノクは 持っていた槍をダビデに手渡す。 「え!?」 やはり武器を手渡したエノクは 戦える武器を持っていない。 「よし!やるか!!」 そうダビデに言うとエノクと2人歩みを止めた。 「他の村人は急いで逃げろ!!」 そうエノクは勇ましく告げた。 なるほどな。 俺たちが魔物を引き付けている間に他の者を逃がす。なんだ。勇者らしい所もあるじゃないか。 魔物4体が二人を取囲み、ジリジリと逃げ場を無くすように歩み寄る。 「なんだ、、、勝ち目はあるのか、、、?」 ダビデは額に汗をかきながら槍を持つ手に 力が入る。 「勝ち目は、、、ある!!」 逃げ場なく魔物が四方を囲んだ時、そう言ったエノクはダビデの肩に乗り上がると アクロバットに飛び上がりその輪から逃げ出した。 そのエノクを1体の魔物が追い、 残り3体がダビデを取り囲む。 おいおいおいおい!普通勇者が取り囲む魔物相手に戦うんじゃないのか!? 何なんだこの状況は!? 「へへへ、まぁいい。貴様から痛めつけてや  るよ。」 ボコっ! 魔物のパンチがダビデに直撃する。 さらにもう1発。 ボコっ! 3方向から来る打撃は防ぎようもなく 槍を抱えて丸まり込むダビデをいたぶるように攻撃する。 痛ぇ!痛ぇ!! 意味わからねぇよ!!戦えない村人をおいて 逃げる勇者なんて!! 痛みは蓄積しダビデの意識を奪っていく。 これじゃあ元より酷ぇじゃねぇか!! 魔物を荒らして、村をぶち壊して、 重ぇ、荷物をもたせられるわ、 動物や魔物にも襲われて、、、 あ〜〜〜〜!! 腹が立つ!! 薄れゆく意識の中、怒りの炎がダビデの身体に蓄積されていき、 意識を失う、、、その寸前、、、 『槍は腰を低くして、身体全体を使い振り切  る』 その言葉が脳裏に蘇る。 「うぉぉぉぉぉ!!」 雄叫びも似たその叫びと共に魔物の足は払われ宙に舞う。 それと同時に現れたのはしっかりと地に付きそうなほど低く構えたダビデの姿。 そうして宙に舞った魔物の1体を槍で突き刺し捉え、もう片方の手で頭を掴み地面に叩きつける。 「フシュュュュ!!」 土煙の中に現れたその姿は、、、 目が怒りで血走り、髪は逆立ち、 今にも噛みつきそうな。 そうそれはまるで、悪魔、、、。 「あぁぁぁぁ」 残る1体の魔物は恐怖のあまり声をあげ、 這うように涙ながらに逃げだそうとする。 そんな魔物を腰を低く構えたダビデは 容赦なく切り捨てた。 「彼はバーサーカー。狂戦士。周りに人が居  ては戦えない。」 そう言って人の居ない荒野まで一人逃げ切ったエノク。 そこにはリュックにたくさん持ってきた武器たち。 「さぁ、あと、もうひと踏ん張りだ!」
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