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男性はそれから力仕事を手伝ってくれるようになった。
ルーエヘーデンと名乗っていたとルナは思い出す。
彼の献身的な行動に、ルナは感謝していた。
が、人との関わりが久しいルナにはそれが感情として表れなかった。
いつの日か剣を見せてくれた。
空気を割くような鋭さにルナは驚いた。
ルナはこの言葉に表せない感情をどう言い表せばいいのかわからなかった。
だから、お世辞のような言葉しか言えず、ルーエヘーデンを不快にさせたと思い込んだ。
ルナは落ち込んだ。
人との距離感がわからず、自分のことがますます嫌いになった。
どうしたら自分が好きになれるのか。
どうしたらもっといい人間になれるのか。
悩みはつのるばかりで、解決しない。
ふと、ルーエヘーデンが頭に浮かぶ。
口数が少なく、人見知りなルナとは違って、たくさん話してくれる彼に自分のことを褒められたら舞い上がるだろう。
なら、話してしまおう。
そうして、自分の身の丈を知ってもらおうとルナは考えた。
「ルーエさん。この前はもっといい言葉をかけてあげられなくて、ごめんなさい……。少し、話したい事がありまして……。」
「もちろん、いいですよ!」
ルーエヘーデンは嬉しそうに答えた。
ルナの心はそれだけで動いた。
ルナはポツポツと話し始めた。
「つまらない話なんですけども……。
私は、魔女の生まれなのです。
ここよりもっと西の方で生まれて、逃げてきました。
おばあさまは私に健やかに育つような呪いを、
お母さまは私に痛みがすぐに和らぐように祈りをくれました。
ですが、二人の魔術は強すぎたのです。
当時、未熟な私はすぐに捕まってしまいました。
死を覚悟しました。
が、痛みがなかったのです。
首を切られたはずなのに、血の一滴すら出ない。
私は恐ろしさで震えました。
切った本人も逃げていきました。
それから、あっという間に月日が経ちましたが、
もう、人としては死んでいるはずなんです。
それなのに……。
この森も、もともとは荒地でした。
何も育たず、水一つない土地でした。
けれど、私が来てから変わったんです。
いつのまにか緑が育ち、たくさんの動物が住んでいました。
それら全ては生態系を循環させているのに、
私だけ、何も変わらない……。
心機一転して、住む場所を変えたのですが、
それでも悩みは解決しなくて……。」
ルーエヘーデンは魔女の手を握った。
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