魅惑の瓶

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魅惑の瓶

 おじちゃーん、この黒い瓶、どうやって開けるのー。  台所から姪っ子の声がする。   どうやら冷蔵庫の奥からコーラの瓶を見つけてきたらしい。 「もしかして、瓶は開けたことないか?」 「うん、見たこと無い。これコーラでしょ?ペットボトルは自動販売機で見たことあるけど」  そうか、さすが令和生まれ。瓶は初めてか。 よし、おじちゃんが開けてやろう、とコーラの瓶を受け取った。  しかし、台所の引き出しをいくら探しても栓抜きが出てこない。  くそ、親父め。ビール開けたらちゃんと栓抜き元の場所にしまっとけっていつも言ってるのに。  俺は、栓抜きが無いから後でな、と姪っ子に言おうとした。  しかし、姪っ子は瓶が開くのを今か今かとキラキラした目で見つめている。  これじゃあ後でなんて言いづらい。 「あー、じゃあ……」  俺は急いでネットで、栓抜きが無い時の瓶の開け方を調べる。  すると色々出てくる出てくる。ハサミ、フォーク、スプーン、鍵なんか使う方法もある。 「へえ、色々あるもんだな」 「ねえおじちゃん早く」  姪っ子に急かされて俺は急いで道具を探す。  とりあえず、鍵は変形するとたいへんだからやめとこう。  ハサミも怪我したら姪っ子のトラウマになる。  まあスプーンが妥当か。  テコの原理を使い、ネットで調べた動画の真似をしてやってみると、案外簡単に開いた。 「へえースプーン使ってあげるんだぁ」 「これは特殊なやり方だぞ」 「とくしゅって何?」 「後でばぁばに聞けよ」  そう言って、俺は姪っ子に、開いたコーラの瓶と、蓋を手渡した。 「この蓋、王冠っていうんだぞ」 「王冠?」 「ほら、ひっくり返せ。冠みたいだろ」 「ホントだ。コーラめ、黒でお宝を隠してたんだな」  姪っ子はなかなか生意気な事を言いながら、蓋を頭に乗せてキャッキャとはしゃぐ。 「ほら、コーラ零すぞ。早く飲め」 「ハァイ」  素直に返事をすると、姪っ子はマグカップにコーラを注ごうとしたので、俺は慌てて止めた。 「おいおい、コーラの瓶はそのまま飲むのが美味いんだぞ。マグカップなんで邪道中の邪道だ」 「じゃどうって何?」 「後でばぁばに聞け。とにかく、そのまま口をつけて飲めよ」 「お行儀わるい」 「悪くねえ」  俺が言い切ると、姪っ子は恐る恐るコーラの瓶に口をつけた。 「な?美味いだろ?」 「ジクジクする」 「え?」 「なにこれ。ジクジクして痛い。おいしいけど痛い」  姪っ子は少しだけパニックになっているようだ。 「お前、もしかして、コーラ初めてか?」 「ママが、まだ早いって」  あっちゃー、後で妹に怒られる。変なもの飲ませるなって。 「おい、コーラ飲んだこと、ママには黙ってろよ」 「なんで?」 「俺が怒られる。お前さえ言わなければバレない。証拠は処分する」  そう言って、俺は姪っ子から、瓶の蓋を取り上げようとした。しかし姪っ子はそれを拒否ってきた。 「おいっ」 「嫌。この王冠、弟にも見せてあげるんだもん」  姪っ子はそう言って蓋を握りしめた。 「いや、でも」  お前の弟、昨日生まれたばっかじゃねえか。それ見せても何の反応もねえぞ。そう言いたかったがさすがにそれは大人げない。 「……仕方ねえ。じゃあ、それは俺が飲んだってことにしろよ。ちゃんと口裏合わせろよ」 「くちうらって何?」 「後でばぁばに聞け」  いっちょ前にお姉ちゃんの顔をした姪っ子から、ほとんど減っていないコーラの瓶を奪い取り、俺は一気に飲み干してゲップをしてみせた。 姪っ子はケラケラとわらっていた。 END
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