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CASE1
ある日、足首に薄いグレーの色をした何かの跡がついていた。
「何だろう、これ?」
不思議なことに、リングのように私の足首を一周している。
最初は気になっていたのだが、とくに痛みもないため忘れかけていたある日、足首の跡がなぜか濃くなっていることに気づく。
「また濃くなってる……」
日に日に濃くなってくその跡は、とうとうハッキリとした黒になっていた。
一体この跡はなんなんだろうと手を伸ばし、リングに触れた瞬間、頭の中で誰かの声が響く。
〝契約を結んだぞ〟
部屋をキョロキョロと見回すが誰もおらず、気のせいだと思い眠りにつく。
しばらくして肌寒さを感じ深夜に目を覚ますと、何故か閉めてあったはずのベランダが空いており、カーテンがゆらゆらと揺れている。
ベッドから降りベランダの扉を閉めようと近づくと、カーテンの後ろに人影のようなものがあることに気づき立ち止まる。
「誰……?」
「初めまして、お嬢さん」
カーテンの後ろから現れたのは、背中から大きな黒い羽を広げている男の姿だった。
男は月明かりに照らされ、その周りには黒い羽がヒラヒラと舞い落ち、こんな状況だというのにあまりにも幻想的な光景に目を奪われてしまう。
しばらくしてハッと我に返ると、一体目の前にいる人物が何者なのか知るために、恐る恐る問いかける。
「貴方は誰? 人間、なの……?」
「僕は悪魔の輸魔。お嬢さんは僕と契約を結んだんだよ」
契約という言葉、そしてこの声。
どこかで聞いたような声音に、足首のリングに触れたときのことを思い出す。
あの時私の頭の中に聞こえた『契約を結んだぞ』という言葉。
その時の声は輸魔と名乗る悪魔と同じもの。
「さっきの声って貴方だったの?」
「思い出してくれたみたいだね」
「思い出したことは思い出したけど、一体契約ってなんなの?」
ただリングのような跡に触れただけで、契約なんてした覚えもないし、なんの契約かさえわからない。
そんな私の疑問に笑みを浮かべると、輸魔は口を開く。
「悪魔との契約リングに触れたことにより、お嬢さんの魂は僕が頂くことを契約したんだよ」
「それって、私は貴方に殺されるってこと!?」
「違うよ。お嬢さんが死んだ後、お嬢さんの魂を僕が貰えるっていう予約みたいなものだよ」
輸魔はニコリと笑みを浮かべながら答えるが、私としては死んだ後だとしても笑えない話だ。
「納得いかないわ」
「でも契約は契約だからね」
そう言うと輸魔は、契約リングのことを話し始める。
そもそも契約リングは、人の目には見えないものらしく、見える者だけが触れることができ、触れた人間は悪魔と契約を結んだことになる。
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