9人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
「悪魔だよ」
「悪魔……?」
「そう、僕は悪魔の輸魔。よろしくね、お嬢さん」
笑顔で名を名乗る輸魔という悪魔に私は頭がついていかず、その悪魔が一体私になんのようなのか恐る恐る問い掛けると、輸魔の手が私の頬に添えられ肩が跳ね上がる。
「お嬢さんは僕と契約したんだよ」
「契約?」
「足首についたリングに触れたでしょ? それが悪魔との契約なんだ」
混乱する頭で考え、この一週間のことを思い出していく。
足首についた黒いリング、間違いなくこの悪魔が言っているのはそのリングのこと。
それに触れたことにより、私は契約を交わしたことになったのだと理解する。
契約とは一体なんの契約なのか尋ねると、悪魔はとんでもない事を口にした。
私が交した契約。
それは、死んだ後私の魂をこの悪魔にあげるというもの。
私の頬に添えられていた手が下へと滑り、顎を掴まれると持ち上げられた。
目の前にある輸魔の瞳は漆黒の色に染まっており、その瞳は光を映していない。
「人間のそのキラキラと輝いた瞳が僕は好きなんだよね」
突然重ねられた唇に驚き、放れようと胸を押すが、離れるどころか後頭部を手で押さえられ更に深く口付けられてしまう。
抵抗も虚しく、されるがままになってしまうと、輸魔の唇が氷のように冷たいことに気づく。
ようやく唇が放れると、銀の糸が二人の間を繋ぐ。
輸魔は息一つ乱さず、その顔には笑みが浮かべられている。
「熱に浮かされた顔してるけど、悪魔の僕を誘ってるのかい?」
私はバッと両手で顔を隠すが、腕を掴まれ簡単に退かされてしまう。
自分が今どんな顔をしているのかわからないが、頬や体が熱を持ち始めているのはわかる。
輸魔の瞳に光はないが、その瞳の奥はギラリと輝き私だけを映していた。
「魂より先に、お嬢さんを食べてあげるよ」
口角を上げニヤリと笑みを浮かべた輸魔に床へと押し倒され、耳や首筋、鎖骨に舌が這わされていく。
今までに感じたことのない快楽に、触られただけで達してしまいそうになるのを必死に耐える。
まるで、最初の口付けが媚薬だったかのように、私の体は敏感に感じてしまう。
「お嬢さんはどんな風に乱れてくれるのかな」
「もう、イヤ……」
自分の魂を食べようとしている悪魔だというのに、そんなことも忘れ、ただ快楽を求めてしまう。
輸魔を見ているとクラクラとして、何も考えられなくなっていく。
「その顔いいね。って言っても、もう快楽しか考えられないよね」
そう言いながら口角を吊り上げ、目を細める姿は悪魔そのもの。
悪魔の声には人を狂わす力があることを、私はこの時初めて知った。
〝もっと、狂って見せてよ〟
《完》
最初のコメントを投稿しよう!