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「違う! 僕は聖人君子になろうなんて思ってないんだ。ただこの角を守りたいんだ。
角があるからゆがんだ性格なのだとか悪者なのだとか、言われたくない。お父さんの言うように角が天才のしるしという良いものだって、世間に知らしめたい。だからそのために、一所懸命勉強して、素行も良くしようと努力した。
角が悪魔のしるしだなんていう悪口は、許せない!」
「良太がそう言ったんだね」
「良太、良太君と、仲良くやっていきたかった。お父さんの期待に応えるために。だけど……」
「うん。許しがたい言葉を吐いた良太が悪い。しかし、君は私に言うべきだった。告げ口が卑怯なんていうことはない。良太を正すためにもね」
「お父さんは、僕のやったことを知ってるの」
翔は単刀直入に訊いた。
五郎はしばらく翔の顔と角を見つめたまま考え込んだ末、口を開いた。
「バラには棘があるが、人々はバラの美しさを褒めたたえる。棘は短所でもあるが、バラの属性としてバラとは切り離せない。
そんな風に、角に対する偏見なく君が世の中に受け入れられればいいのだが」
「僕は角を切除しないで、角のある人間として立派になって社会に認められたい。でも、罪を犯してしまった」
「いや、君も良太も潔白だ。赤坂刑事は良太と雑談しただけだ」
五郎はそれが唯一の真実だというようにきっぱり断言した。
「えっ!」
雨音が父の言葉と混ざって、ピアノ曲のように響いた。
「お父さん!」
翔は雨音に誘い出されて、涙を溢れさせた。
「僕だって良太が羨ましい。可愛いガールフレンドがいて、楽しそうで」
「君にも、ガールフレンドぐらいできるさ。私が保証する」
そう言って、五郎は翔の肩を叩いた。
五郎は予告メールを見た瞬間、これを書いたのが翔だとわかった。
翔には自分の描いたイラストや絵に、X(かける)というサインを入れる習慣があることに、五郎はつとに気付いていた。
ミスターXのXはエックスではなく、かけるだったのだ。
(了)
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