1,予告メール

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1,予告メール

5月5日の子供の日、大型ショッピングモール「ふれあい」の中の広場では、ふれあいのキャラクター、フレンド君と遊ぼうという子供向けのイベントが開催されていた。 フレンド君はグリーンのキャップをかぶった幼稚園児だが、着ぐるみのフレンド君は大人並みの大きさだった。 そのフレンド君が、子供たちにカラフルな風船やステッカーを渡して愛敬を振りまいていた。 会場にはトランポリンやボールプール、ミニ滑り台といった遊具が設置されて、五月晴れの天気のもと、大勢の親子連れでにぎわっていた。 会場の和やかな雰囲気とは裏腹に、苦虫をかみつぶしたような表情で見守る男がいた。 それはショッピングモールのマネージャーで、今回のイベントの企画責任者の鍋島だった。 鍋島は隣に立っている常駐施設警備員の木戸に小声で言った。 「現れないな」 「そうですね」 木戸が相槌を打った。 鍋島は昨夜一睡もしていなくて、目の下にクマができていた。その原因は、昨日の夕方ショッピングモールに届いた1件のメールだった。 「参上予告 明日5月5日にそちらの広場で開催される予定の「フレンド君とふれあおう」のイベントに、当方も参加したく思います。 魅力的な角のある姿でちびっ子たちの間を駆け回り、パニックを引き起こします。お楽しみに。 パン オブ パニックことミスターX 」 鍋島が警察に相談したところ、大きなニュースにはなっていないが、パン オブパニックを名乗る類似のメールが最近3件ばかり送られたとのことで、送り先はデパートの屋上のイベント、幼稚園、遊園地などいずれも小さい子供の集まる場所だった。 メールの内容に凶暴なものは感じられず、せいぜい角を生やしたキャラクターに扮装した人物が乱入する程度と見做して、十分な警備をした上でイベント等は実施された。 いずれもパン オブ パニックらしき人物は姿を現さず、警察ではいたずらの一種と考えた。 そこで今回のショッピングモール「ふれあい」への予告メールの件も、同様のいたずらと見做し、念のため警察官1名を警備要員として派遣した。 後は警備会社に要請し、十分な数の警備員をそろえた。 現在午後3時過ぎ。イベント開始からすでに数時間が経過し、4時の終了まであとわずかだった。 昼食もおにぎりとペットボトルのお茶で簡単に済ませた鍋島は、イベントが無事に終わって早く肩の荷を下ろしたいと、切に願っていた。
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