3,良太

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3,良太

御木元五郎には息子が一人いた。良太という名前で、翔とちょうど同じ年齢だった。 良太は幼稚園から大学迄一貫した学校で、その中学に翔が入学したのだった。 生徒数が多く1学年は7クラスあったため、3年間で同じクラスにならなかったが、翔が試験で学年のトップを争う好成績を常にとっているということは、当然良太も知っていた。 一方良太はというと、中の上あたりをさまよっていた。 御木元家の長男として、良太が御木元外科医院の跡継ぎとなることは明白だったが、学年が上がるにつれ2人の明暗がくっきり分かれていった。 父親の五郎には2人をライバルとして競わせようという意図はなかったが、良太の不甲斐なさと翔の優秀さのコントラストが、五郎の青写真にじわじわと影響を及ぼしていた。 高校生になると、もはや翔を跡継ぎにするのが最良ということが誰の目にも明らかになり、五郎はガールフレンドなど作ってともすると怠けがちな良太に説教することも多くなった。 エスカレーター式とはいえ、医学部への門は狭く、もし翔か良太のどちらかということになれば、翔が選ばれることは必定だった。 良太は医者になって父の病院を継ぐ意思はあるものの、青春を謳歌したい年頃や気質でもあり、勉学一筋の日々を送ることに不満があった。 もし自分の他の者を跡継ぎに据えるというのだったら、それも致し方ないと内心思っていたが、翔だけは嫌だった。 翔を御木元家に引き取るにあたって、五郎は妻の洋子と息子の良太の同意を得た。 「同い年で話も合うだろう。仲良くしてやってくれ」 と父親に言われ、良太は「うん」と返事をしたものの、その内面にはすでにどす黒い感情の萌芽があった。 最初は角のある奇形として生まれ、実の親に疎まれた翔に対して憐れむ気持ちもあったが、翔の学力が良太のそれをあっという間に凌駕するに至って、憐みはどす黒い妬みに圧倒された。 同じ高校だから試験の内容も同じで、その結果(点数)が一目で比較できることも、良太にはつらかった。 中学の時以来、学年テストで良太が翔の成績を上回ったことは一度もなかった。
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