3,良太

2/2

1人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ
父親は翔の角のことを、天才の証として天が賜ったのかもしれないと言ったが、自然と翔への誉め言葉の方が自分より多くなるのも、一人息子としてやりきれなかった。 母親の洋子まで翔を気の毒に思って何かと気を遣うのが疎ましく、良太の妬みに油を注いだ。 良太はある意味要領のいい人間で、学校の先生や父親など目上の者の前では猫をかぶって、陰で弱い者いじめをしたりした。 虚弱な翔より体格の面では良太の方が上回っていて、それが唯一の優越感でもあった。実際の所、運動神経は翔の方が発達していて、勝負をするとなると翔が勝つ可能性が高かった。 しかし2人とも取っ組み合いの喧嘩などする気はなく、良太は親にばれないように口先で嫌味を言う陰湿ないじめを翔に対してした。 ある時、良太は翔に角に触らせろと要求した。翔が「いいよ」と答えると、良太は初めは恐る恐る角に触れ、やがてギュッと握ったりした。 軽く触れただけでは何も感じないが、力を加えると痛みがある。「これはどうだ」と良太はしまいに角を強く引っ張った。 たまらず翔が叫び声を上げるとすぐにやめたが、ニヤニヤ笑いを浮かべて「髪や耳と同じなんだな、お前の角は」と言って、それから罵詈雑言を並べ立てた。 「角なんて、悪魔や鬼の仲間じゃないか。よく言って、化け物だ。天才の証だなんて、こじつけもいいところだ。牧神は好色で、昼寝してばかりいるんだろ。昼寝の邪魔されてキレるなんて、未熟だな。 大体、19世紀のエレファントマンの時代だったら、お前は見世物小屋送りなんだ」 翔は良太の言うことをひと通り聞くと、キッとにらんで「言いたいことはそれだけか? 話が済んだらあっちに行ってくれ。勉強の邪魔だ」と冷ややかに言った。 その冷静さに業を煮やした良太は、捨て台詞を吐いた。 「うちの親父が何を血迷ったか、お前を養子にするつもりらしい。医院を継がせる気なのか。だが、お前みたいな化け物が院長になったら、病院に誰も来なくなってつぶれるのがオチさ」
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加