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 再び目を覚ました時、たくさんあったはずの小さな人影たちはすっかり見えなくなってしまっていた。大地には、ずいぶんと大きくなったあの深く真っ暗な穴が見えるだけ。シーツを身体に巻き付けたまま、窓に近づく。 「あの穴はこれからどうなるの?」 「どんどん大きくなって、この国どころかやがて世界をも呑み込むだろうね」 「まあ、そうなの。けれどこの城は天空に浮いているのだから、呑み込まれるのは一番最後になりそうね」 「その通りだ」 「そうしたら、そのときに私の魂も身体も、そして心もあなたがもらい受けることになるのかしら。そして、あなたはまた私が呼び出すまでいたように世界の外側に還るのでしょうね。それまで、ゆっくりお茶を楽しみましょう?」  私が男を見上げて言えば、彼は不思議そうな顔で首を傾げていた。 「君の魂も身体も心も、もう既にもらい受けたつもりでいたが?」 「え? 何を言っているか、わからないわ。だって私、まだ生きているわよ?」 「どうして、魂に身体、そして心をもらい受けたら、死ぬことになるんだい? この世界が終わっても、わたしたちの暮らしは終わらないよ?」 「でも、あいつが」 「わたしは、あの男とは趣味が異なる」  趣味やら性癖の問題で、私は死にかけたのだろうか。なんだかなんとも言えない気持ちになる。まあ、とりあえずの感想は伝えておこうか。 「何というか、魔王さまってすごいのね」 「次の世界では、わたしたちこそが神と呼ばれるものになるからね」  ぱちくりと瞬きをひとつして、まじまじと黒ずくめの男の顔を見た。ふたりの違いばかりが目についたが、よくよく観察すれば黒ずくめの男と全身白銀男は、顔かたちがよく似ている。今になって思えば、どうしてその類似点に気が付かなかったのか不思議に思えてくるほど。 「わたしたちは、似たような存在だ。あの穴に吸い込まれて、世界は裏表がひっくり返る。今回はあれが神と呼ばれる立場だった。だから、次の世界でわたしたちが神と呼ばれる立場になっても、何もおかしなことはないよ」 「あなたの話していることは難しくてよくわからないわ」 「お茶会の終わりを心配する必要はないということだ」 「まあ、嬉しい。これからもあなたと一緒にいられるのね」  巻き付けたはずのシーツは、いつの間にか夜を縫い留めたような深い闇色のドレスに変わっている。裸だったはずの男も、洒落た貴公子のような服装に切り替わっていた。彼の耳元では相変わらず黒真珠の耳飾りが揺れている。 「さあ、お茶会の続きといこうか」  一瞬で調えられたテーブルの上のお菓子よりももっと甘いものが欲しくて、私は無言のまま男と唇を重ねた。
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