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「っ、ぅ……?!」
腹を貫く焼ける様な感触。
(ああ、俺は撃たれたのだ――)
そう気が付いた時には、もう全てが遅かった。
焼け付く様な痛みが全身を襲い……次いで、直ぐに腹から大量に何かが流れ出していく感覚がする。
きっと、血だ。
俺の生命の源である血が、傷口から体外へと流れ出していっているのだろう。
ーー俺は、直ぐに死ぬ。
だが、後悔はない。
武士として誇り高く生き、命を懸けるべき場所で命を張り……そして、華々しく散った。
この散り際こそ、武士の生き様……いや、「俺」の生き様だ。
死ぬにはまだ若いだの言いやがる奴もいるが、俺は自分の生き方は自分で決める。
勿論、死に方も、死ぬ場所もだ。
そうして、俺は此処を死に場所と定めた。
腹から血を大量に垂れ流し、それでも刀を振り回して目の前の敵を切り裂いていく俺の姿は、新政府軍の奴らには大層恐ろしく映ったことだろう。
でも――それでいい。
俺は血に塗れた刀を大きく天へと突き上げると、在らん限りの大声で叫んだ。
「新政府軍の犬共よ、聞こえるか!例え俺の肉体は滅んでも、魂は守護者となって常に仲間と共にある!お前達が俺の仲間を……仲間の家族をも害するならば、俺は地獄から蘇ってお前達を……いや、お前達の家族や関係者全員を祟り殺してやるからな!!!覚悟しろ!!!!」
そう叫ぶと同時、口から大量に血を吐き出す俺。
きっと、今の俺の悪鬼の様な姿は、新政府軍の奴らの瞼に焼きつきーー決して脳裏からは消えない筈だろう。
“恐ろしい悪鬼土方が守護している旧幕府軍にこれ以上手を出せば、自分や家族……一族郎党の命すら危ないかもしれない”
そんな噂が広まるならば尚更良い。
(ああ……大切な者を守る為なら、俺は悪鬼にだってなってやるさ……)
誰にともなく満足げに微笑む俺。
そうして、俺の意識と視界は漆黒の闇にのまれていった。
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