土方さんちの美味しいご飯

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すると、まるで飯という言葉を生まれて初めて聞いたかの様に大きく首を傾げる優。 次いで、その状態のまま、彼はこう言った。 「ないよ?だって私、昨日死ぬつもりだったもの」 「?!」 飯がない、だと……?! 今の飢えている俺にとっては最悪の言葉だ。 が、そこで俺はふと思い直す。 (いや、飯がないならせめて自分で作ればいい) 幸いなことに、簡単な料理ならば俺にも作れる自信はあった。 なので、俺は隙あらばしがみついてこようとするバカを手のひらで押し除けつつ、再度問いかける。 「なら、材料はないのか?野菜や肉、それに米は何処にある?」 と、また大きく傾げてくる優。 彼はきょとんとした――大の男には全くもって似合わない表情のまま、こう言った。 「それもないよ?だって私、自炊しないもの」 なんてこった。 (こいつ、やっぱり本当に霞でも食って生活してたのか?) そう言えば、大柄な割に体はやや細身な方に見えるし、肌の色も少し白い気がする。 俺は思わず、優にこう問いかけた。 「お前……今までどうやって生活してたんだよ」 「んー?私はあまり食事をとらない方なんだよ。食べることに時間を使うより、仕事や研究の続きをしていたいしねぇ。あ、でも今は食事より……もうちょっと土方さんを堪能したいかな」 そう答えながら、懲りもせず両手を伸ばして来た優の脳天を、軽く刀の鞘でどつく俺。 「はぁ……。こいつ、自殺する前に不摂生で死ぬんじゃねぇか……?」
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