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俺の名前は土方 歳三。
新撰組、鬼の副長として恐れられた侍だ。
そんな俺は、函館の五稜郭で、新政府軍に腹を撃ち抜かれて死んだ。
そう――その筈だった。
が、これは一体どういうことだ。
「えー……と?こんにちは?」
目の前には、困った様な微笑みを浮かべた若い男が、立ったまま此方を見つめている。
俺は周囲を見回しながら、男に声をかけてみた。
「お前……そうか。此処は診療所だな?てっきり俺はあの時死んだと思っていたが……そうかそうか、地獄の淵から蘇ったか」
しかし、俺の言葉に大きく首を傾げる若い男。
男が首を傾げると結んでいる長い黒髪がサラリと揺れた。
「えぇとね。此処は診療所ではなくて、私の家なんだよ」
「貴様の家……?」
(ということは、俺は瀕死のところをこの男に助けられたのか?)
であれば、此処は、差し詰め旧幕府軍の秘密の隠れ家というところだろうか?
俺は一人でそう納得しながら、ぐるりと周囲を見回してみた。
やけに白い壁。
何やら用途の分からないでかい布の塊。
部屋の真ん中にある座卓は妙に脚が高いし、天井では小さな太陽の様な物が眩しい位の光を放っていた。
(……何なんだ?この部屋は。面妖な。見たこともない物ばかりじゃねぇか)
まさか、全て南蛮渡来の舶来品だとでもいうのだろうか?
(旧幕府軍は財政難だとばかり思っていたが……そうか、こんなところに隠し財産があったのか)
と、俺の背後で女の叫び声がする。
見ると、やけに大きな黒い四角い枠の中で、今まで見たこともない様な格好と髪色をした若い女性が襲われていた。
逃げ惑う女性に向け、やはりこれもまた見たことのない……恐らく刃物の類であろう物を構える、顔に白い能面の様なものをつけた男達。
男が刃物を女性に振り下ろそうとした瞬間、俺は腰の刀を抜き、男達に向かって振り下ろした。
「こんなに若い娘一人をよってたかって……てめぇら、男として恥ずかしくねぇのか!恥を知りやがれ!」
が、俺の刀が男達を切り裂いた……と、思った次の瞬間、なんと一滴も血を流さず、黒い四角い枠ごと真っ二つになる男達。
同時に、先程目の前にいた長髪の若い男が悲鳴を上げた。
「あぁ?!私のテレビがぁぁ!!!」
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