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(まさか、此処が死後の世界だとでもいうのだろうか……?)
俺は、確かめる様に自分の腹部に触れてみた。
と、痛みはおろか撃たれた傷すらなくなっている事に気付く。
(もしや、死んだから……死後の世界だから、傷が消えた、と……?)
で、あれば、目の前のこの男は死後の世界の住人――死神なのだろうか。
俺は、初めて男をまじまじと見つめてみる。
長い黒髪を無造作に襟元で結んでいる、20代後半位の若い男。
身長は……俺よりだいぶ高い。
体つきも、まぁまぁ恵まれている方だ。
まぁ、俺程ではないが。
顔も……ふむ、それ程悪くない。
勿論、俺には及ばないけれど。
(コイツが死神でなかったら、きっと女どもが放っておかなかっただろう)
そんなことを考えながら、男の頭のてっぺんからつま先までを観察する俺。
死神といえば黒い着物だとばかり思っていたが、男はやけに派手な薄布に、青くて細い袴を穿いている。
よく落語で聞いたり、絵等で見る死神の姿とかなり衣装が違うのが気になるが――きっと、死神にも個性があるのだろう。
「よし、死神。早速、俺をあの世へ案内して貰おうか」
俺は死神を見上げ、ぽんとその肩に手を乗せる。
と、死神はげんなりした様子で呟いた。
「だから……此処は未来で私は死神じゃないんだってば……」
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