土方さんちの美味しいご飯

4/30

418人が本棚に入れています
本棚に追加
/30ページ
(まさか、此処が死後の世界だとでもいうのだろうか……?) 俺は、確かめる様に自分の腹部に触れてみた。 と、痛みはおろか撃たれた傷すらなくなっている事に気付く。 (もしや、死んだから……死後の世界だから、傷が消えた、と……?) で、あれば、目の前のこの男は死後の世界の住人――死神なのだろうか。 俺は、初めて男をまじまじと見つめてみる。 長い黒髪を無造作に襟元で結んでいる、20代後半位の若い男。 身長は……俺よりだいぶ高い。 体つきも、まぁまぁ恵まれている方だ。 まぁ、俺程ではないが。 顔も……ふむ、それ程悪くない。 勿論、俺には及ばないけれど。 (コイツが死神でなかったら、きっと女どもが放っておかなかっただろう) そんなことを考えながら、男の頭のてっぺんからつま先までを観察する俺。 死神といえば黒い着物だとばかり思っていたが、男はやけに派手な薄布に、青くて細い袴を穿いている。 よく落語で聞いたり、絵等で見る死神の姿とかなり衣装が違うのが気になるが――きっと、死神にも個性があるのだろう。 「よし、死神。早速、俺をあの世へ案内して貰おうか」 俺は死神を見上げ、ぽんとその肩に手を乗せる。 と、死神はげんなりした様子で呟いた。 「だから……此処は未来で私は死神じゃないんだってば……」
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

418人が本棚に入れています
本棚に追加