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優に台所の機械の使い方を聞きながら調理すること約1時間。
俺の自慢の牛めしが完成する。
「さぁ、有り難く食いやがれ」
俺がそう言っててえぶるに出来立ての牛めしを並べると、優はわざとらしく大仰に頭を下げてみせた。
「ははー、有難き幸せ」
その表情に……近藤さんの血を継ぐ優が笑顔でいることに、何とも言えない感動に近い感情を覚える俺。
だが、俺はそんな気持ちを優には決して悟られない様に、わざとつっけんどんに対応してみせた。
――共に食卓を囲んで、あたたかい出来立ての飯を一緒に食う。
たったそれだけのことが、なんて幸せなことなのだろう。
(昔……隊士達と一緒に飯を食っていた時も、こんな気持ちになったことがあるな……)
そう――それは、「生きていられる」ことが当たり前ではなかった時代。
命の奪い合いが普通であったあの時代に於いて、気の許せる仲間達と飯を食う時間が、唯一生きていることを……幸福を実感できる時間だったのだ。
(だから、俺も……いつからか、飯を作ることが好きになったんだよな)
自分の作った飯を仲間達が生き生きとした笑顔で美味い美味いと言いながら食べてくれる。
あれ程、幸せで満ち足りた時間はなかっただろう。
――そんな幸せな時間は長くは続かなかった訳だが。
俺は、昔の幸福であった時間に思いを馳せながら、飯を口にした。
そうして、今、目の前にいる男のことを考える。
家族を亡くし、愛した女に裏切られ、大切な形見や家宝までも……全てを奪われた哀れな男。
そんな男が……俺を、生きる理由にしたいと言って来た。
最初に言って来たあの言葉は、今思えば、きっと優の本心からの言葉だったのだろう。
と、同時に、俺にはどうしても気になることがあった。
「なぁ、優?形見を取り戻しに行く前に、ちゃんと聞いておきたいことがある。……お前、こんな俺のどこを好きになったんだ?」
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