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だが――。
それと同時に、もう1つ俺は考えなくてはならないことがある。
それは、決して優には相談できない内容だ。
俺は、優と差し向かいで牛飯をかき込みながら……ふと、『そのこと』を考えた。
(俺は、優を救う為にこの世に呼び戻された存在だ。なら……もし、全てを取り戻して、優の心が救われたとしたら……俺はどうなるんだろう?)
また、死者に――あの世に戻るのだろうか。
(優は両親が死んだことを嘆いていて、誰かに側にいて欲しいと願っていた。だから、俺が呼ばれたとばかり思っていたが……。もし、親の形見が取り戻せたことで、コイツが満足してしまったら……?)
俺は、優と離れ、あの世でまた眠りにつくのだろうか。
――そう思った瞬間、不意に胸がチクリと痛む。
何故だろう。
ここに来た当初は、あんなにあの世に……武士として散ったままにして欲しいと願っていたのに。
今は、優の側を離れることを苦しく……どこか耐え難く思う自分がいるのだ。
と、そんな俺の変化にめざとく気がついたのか、優が心配そうな表情で俺を見つめて来た。
「土方さん、どうかした?」
「いや、何でもない」
優の言葉に、そっと頭を横に振って見せる俺。
(そうだ……。優が……コイツが幸せになれるなら、俺はあの世に戻ろうともいいじゃないか)
それは、きっと喜ぶべきことなのだから。
だが、一度感じた些細な胸の痛みは消えることはなく――。
俺は胸に小さな痛みを――棘が刺さった様な違和感を抱えたまま、ただ無言で飯を口に運んだ。
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