土方さんちの美味しいご飯

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と、そんな俺を心配したのか、優がふとこんな提案をする。 「ねぇ、土方さん?全てを取り戻せたら、一緒に京都に行こうよ」 「京都……?!」 優の口から出た懐かしい地名に、表情が綻ぶのを止められない俺。 だが、仕方ない。 京都には、俺達が幸せで……満ち足りていた頃の幸せな思い出が沢山眠っているのだ。 「ああ、いいな……行こう。……凄く、行きたい」 柄にもなく満面の笑みを浮かべたまま、優の言葉にそう返す俺。 だが、俺の脳裏には……どうしようもなく止められないくらい、懐かしいあの頃の思い出達が蘇っていたのだ。 同時に、俺の胸にはほんの一瞬、 (果たして……優が全てを取り戻した時、俺はコイツの隣に居られるのだろうか……?) そんな疑問が湧き上がる。 しかし俺は、その疑問を頭を振って追い払うと、優に再度微笑みかけた。 「いや。楽しみだと思ってな。折角だから、お前に見せてやりたい場所が沢山あるんだ」 俺がそう告げると、とても嬉しそうに笑う優。 「そうなんだね。それは楽しみだなぁ」 「だろ?京都に関しては、俺達以上によく知ってる人間はいねぇだろうよ。なんせ、不逞浪士(ふていろうし)を追いかけて脇道や小道の隅から隅まで見回りをしてたんだからな」 俺は昔のことを思い出しながら――あえて優を不安にさせない様、そう笑ってみせる。 優は俺のそんな気持ちに気づいているのか……あるいは、気づいていて気づかないふりをしているのか、ただ楽しそうに微笑みながら俺を見つめていた。 優しい、穏やかな光をたたえている優の黒い瞳。 俺は、その眼差しを見つめながら、ふと、こう思う。 (ああ、この時間が……この楽しい時間が永遠に続いていけば良いのにな) と。
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