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「確かに、家宝も肩身も大切だ。でも、今の私にとって……居場所になってくれると約束した貴方以上に、大切なものはないんだよ」
優はそこまで告げると、俺の手を己の口元に運び――まるで、俺の体温を、感触を確かめるかの様に、そっと唇を落としていく。
手にではあるが……あたたかくて、ほんの少しだけくすぐったい、優からの初めての接吻。
俺は、そんな優に瞳を向けたまま、答える様に口を開いた。
「お前は……ったく。俺は、男だぜ?しかも、昔はバラガキなんて呼ばれた悪童で……大人になっても鬼なんて揶揄された様な人間だ。そんなやつをここまで恋したうなんざ、本当に酔狂なやつだよ、お前は。……でも、嫌いじゃない」
俺の言葉に、はっとした様な表情を浮かべる優。
俺は、そんな優の顔を見つめながら、そっと頷いてみせた。
「わかってる。前にも言ったろう?武士に二言はねぇんだよ。お前が生きたくなるまで側にいると約束した以上、俺は絶対に死んだりしねぇ。お前を置いて逝ったりしねぇよ。安心しろ」
すると、漸く安心したのか――俺の言葉を聞いた優の表情に笑顔が戻る。
そうして、優は俺をそっと包み込む様に抱き締めると、暫くそうしたまま離れなかった。
「全く、仕方ねぇやつだな。これから、必要な武器や潜入の仕方について話し合うんだったんじゃねぇのか?」
が、優は俺を抱きしめたまま、呟いた。
「今は貴方を離したくない。このまま話し合わせて」
「本当に仕方ねぇなぁ……」
俺は、わざとそう大仰に言ってはみせたものの――正直、悪い気はしていなかった。
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