425人が本棚に入れています
本棚に追加
「……こうつうじこ?」
意味はよく分からないが、優の顔色を見るに、きっと不慮の出来事か何かなのだろう。
すると、徐ろに口を開く優。
「……会社……私が働いていた場所でね。私は大きな成果を上げて、その報酬でお金を沢山貰ったんだ。だから、私は……今まで苦労をかけた両親に、親孝行をと思って、旅行を贈ったんだよ。でも……その旅行へ行く途中、私の両親は交通事故に巻き込まれて……」
俺の手を握ったままだった優の両手に、ぐっと力が込もる。
筋張っている、大きな優の両手。
その両手は――まるで、彼の心の動揺を映し出しているかの様に、小さく震えていた。
「……偶然現場を見ていた人がね、教えてくれたんだよ。私の両親は……最後まで私の名前を呼んで……苦しんで苦しんで亡くなったらしい。両親の車は前も後ろも他の車に挟まれていたらしくてね。燃え盛る車内から……私の大切な人達は逃げ出すことすら出来ず、生きたまま焼かれて亡くなったんだ……」
絞り出す様に告げる優の声が震えている。
「……私のせいだ。私が旅行なんて贈らなければ……。だから、私も……昔から大好きだった貴方の遺品の手入れが終わったら、両親の元へ逝こうと思っていたんだよ」
そう語る優の笑顔はあまりに儚くて――。
でも、その瞳の中に、俺は以前仲間達に見たのと同じ――死へと自ら向かう者特有の意志の火を見た。
最初のコメントを投稿しよう!