425人が本棚に入れています
本棚に追加
(ああ……あれは、死ぬのを決めた者達の瞳に宿る火だ……)
俺はあの火を――あの瞳を、何度も見たことがある。
池田屋で、禁門の変で、五稜郭で。
自分の死に際を……自らの寿命を自らで区切り、死地に赴く者の瞳だ。
(この男が言っていることに嘘はない)
きっと優は、俺と会っていなければ自らの手で死ぬつもりだったのだろう。
でも、俺と出会ってしまったことで――今、初めて優の死への決意が揺らいでいる。
俺の瞳を見つめ、再度柔らかく……淡く微笑む優。
その笑顔を見た瞬間、俺は唐突に理解してしまった。
(優が言っていた通り……きっと俺は、コイツの先祖の誰かによって、此処に蘇らされたんだ。コイツを死なせない為に)
その先祖が誰なのかはまだ全く見当もつかないが。
だが、差し当たって、やらなければいけないことが1つある。
俺は、未だ俺の手を握ったままの優の瞳を真っ直ぐに見つめ返した。
そうして、にっと笑って見せる。
「わかったよ、仕方ねぇ。約束しちまったのは俺だし、武士に二言はねぇからな。お前が死にたくないと思える時まで、俺が家族の代わりになってやる」
瞬間、あたたかくて大きなものに包まれる俺の体。
優に抱き締められたのだと気付いたのは、彼の嗚咽が耳元で響いた時だった。
「……馬鹿なやつだなぁ。お前が死んだってお前の家族が喜ぶ訳ねぇだろ。それに、お前の家族だってお前のことを心配こそすれ、恨んじゃいねぇだろうよ」
俺がそう告げると同時、耳元で聞こえる優の泣き声が一際大きくなる。
だが、俺はそれには一切触れず――ただそっと手を伸ばすと、彼の頭を撫で続けた。
母親が幼子を慰める様に。
最初のコメントを投稿しよう!